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雪村 聡
ごめんなさい
誰かに聞いてほしいこの想いは、誰にも打ち明けられずにいた。


チハルも夏菜も私にウンザリしている。
相手にもしてくれないだろう。

…ましてや慰めても。





次の日。
教室の扉が、私を拒むバリケードに見えた。
開けたら最後、もうこの学校にはいられないんじゃないかな。

あけようとした手が空を切った。
向こう側から、誰かが開けたんだ。

それは夏菜で。
チハルとトイレに向かう途中だった。
見事目が合った私を無視して、何もないかのように歩き出す。

私はうつむいた。
夏菜、チハル…ごめんね。


その一言が、面と向かって言えない。




昨日一晩泣きながら考えた。

先輩を失って、友達も失うと、私には何も残らない。
明日すら見えなくて、死にたいと思うほどに暗い考えにたどり着く。

けれどそれじゃダメだって、真ん丸の月を見て思った。



強くなりたい―――――そう思って合コンに行ったんでしょ?美乃里。
1時間目のテスト。
まったくできなかった。
問題すら読めなかった。
寝不足と泣きすぎが祟ったんだ。0点覚悟。

そうして2時間目、3時間目…とテストが1つずつ終わっていく。
「はぁ〜終わった〜」
最後の科目。
終了の鐘が鳴ったと同時に、夏菜が腕を伸ばして言った。
それをきっかけに、みんながそれぞれの友達と喜びを分かち合う。




「夏菜!」
テストに解放された放課後。
勇気を出して声をかける。
…夏菜とチハルの顔が固まった。
「…なに?」
けれど、2人はしっかりとこちらを見据えた。
逃げないし、避けない。
そんな姿勢が伝わってきた。
「あの…えっと…ごめん!先輩と「ヌケガケ」みたいのして!」
そう言って頭を下げる。
2人の顔がまともに見られないから。
「…謝らなくて、いいよ」
夏菜の声が頭上から降ってきた。
意外な返答に、即座に頭を上げる。
「あんたはさ、先輩と遊びに行って楽しかったんでしょ?ドキドキして、嬉しかったんでしょ?」
「え…?え、あっ、う、うん」
「…楽しかったり、嬉しかったりしたことを、謝らなくたっていいんだよ」
「え、でも、じゃあ」
「言えっての!」
夏菜がコツンと私の頭を突く。
「私、のろけてたの…アホみたいだったじゃん」


涙が、また出た。

夏菜は全然アホじゃない。
アホで大バカなのは、私。

「…友達じゃん?言ってよね」
「うわ〜んッ!!」

夏菜の胸に飛び込む。

ごめんねとグチャグチャの顔をして言った。
何度も何度も、涙が止まるまで。


夏菜の胸が、あまりにも温かくて、もっともっと抱き寄せたかった。
そう、気付かなかった。


夏菜やチハルの温かさ。
私の大切な…友達。










「謝りなよ」
しばらく経ったあと、夏菜が私を指差す。
腫れた目を見た時点で、2人は私が先輩と何かあったと察していたらしい。
私が話し終えるとやっぱりね、と同時に頷く2人。
「でも…会いづらいよ」
「バカ者!」
チハルが丸めた教科書で私を叩く。
「今謝らない方がもっと気まずいね!」
「でも…」
そう言って夏菜に目線を動かすと、夏菜はケータイを広げて何やらメールを打っているようだ。
「…よし。先輩を駅前に呼び出しといたから、今から行きな!」
「え!?」
「ホラホラ行った行った〜」

夏菜とチハルが私の背中を押した。
ウソ、待って。
昨日の今日だよ。
先輩きっと怒ってるし、私嫌われちゃってるよ。

電車から降りて、待合室から駅前をぐるりと見回す。
学生服を着た生徒が多すぎて、先輩がどこにいるのかは特定できなかった。
ああ、胸が痛い。
今すぐにでも逃げたい。
「…美乃里ちゃん」
「ぎゃっ!」
背後からの声に肩を震わせた私。
背後には…わわわ雪村先輩!
「夏菜ちゃん…は?」
「あ、その…」
先輩はいつもより冷静だった。
こんなタイミングのせいだろうか、先輩が怒って見える。
「その…あの」
「?」


「ごめんなさい!!」
先刻と同様に頭を下げる。
「え!?」
「昨日、ひどいこと言いましたよね!」
両目をぐっとつむった。
許してもらえないかもしれない。
「…いや、オレの方がひどいこと言ったよ」
「何も言ってないです!」
顔を上げて先輩を見上げた。
そう先輩は売り言葉に買い言葉ってやつ。私がふっかけたケンカにのっただけであって、何もひどいことなんて言ってない。

「…てかいいや。忘れよ」
先輩がニッコリと笑った。
幼げな、愛らしい笑顔。
それに妙に拍子抜けしてしまって。
「忘れよ…って…いいんですか?」
「うん」
あっさりと返答する先輩。
「美乃里ちゃんがもとに戻った!それだけでいいからさ」
胸がキュッと縮んだ。
それが、何かはもうわかりきったこと。
「オレも、もう忘れたいしね」


―――――刹那、先輩の悲しげな顔を見た。

核心に触れているような先輩の発言。






「お姉さんと、何かあったんですか?」
先輩は微笑して何も言わない。
口をつぐんで…、どうして?
今にも泣き出しそうなくらいにつらそうな表情。

「…言おうかな。美乃里ちゃん、聞き上手だし」
笑った先輩。
でもいつもと違って切ないくらいにかすかな笑いで。


…先輩が近くの公園を指差した。

聞きたい…でも聞きたくない。
複雑に思いながら、待合室をあとにした。





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あきゅろす。
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