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雪村 聡
一瞬にして、明瞭と


家に帰って。

いつからだったのだろう…とケータイのスケジュールを出した。

出会ってほんの少し。
…なのに、なんであんなに傷付いたの?





――――…美人なカノジョがいたっていうだけで。




チハルは、何も私に訊かず、「気を付けて」と言って帰ってしまった。
チハルはきっと私の気持ちがすぐに何かわかっただろう。


…何も言わなかったけれど。


チハルはそんな子。
私よりもずっと早く、私のことわかっちゃうんだ。




次の日。
夏菜はいつも通り元気だった。
泣きはらしたのかな?
いつもより腫れぼったい目が痛々しくて。私なんていつも通りの目。

夏菜がどれだけ先輩を好きだったのか…推し量ることができなかった。





帰りの電車に乗り込んで、過ぎ行くいつもの景色を目で追う。
鏡のように逆さに映るガラス窓の自分を見て、ため息をついた。


美人な、カノジョ。



どんな素敵な人なんだろう。
あの雪村先輩を振り向かせた人って。


「よ!美乃里ちゃん!」

駅を出ると、ツンツン頭の人影が手を上げる。

え…



「ゆ、…雪村先輩…」

なんとなく気まずくて目線を反らした。
別に私と雪村先輩には何にもない。
憧れて…憧れて恋焦がれてるだけ。

「夏菜ちゃん、昨日泣いてたよね?」

頭をかいて私に問う。
そう、泣いてたんだよ。
美人なカノジョを見て、朝まできっと泣きはらしたんだよ。

「えぇ…結構泣いてました」

意地悪に呟く。
さらに焦る先輩。
なんとなくいじめたくなってくる。

「…そっか。でも誤解って言っておいてもらえないかな?」
「…どうしてですか?」
「え!?どうして…か?」
そう言ってあごに手を寄せて考える先輩。

それって、夏菜には誤解されたくないってこと?


…私だって…。





行き場のない強い想いに、拳を強く握る。
今ここでぶちまけたって、それはただの押し付けで。
でも無神経すぎるほど鈍い先輩に…ううん、気付かれることに怖がって動き出せない自分に苛立って…。

「いや、カノジョじゃねぇんだあの人は。仲良さそうに見えただけで…ホントは…兄弟…だからさ」

「兄弟」。
先輩?
そこだけどうして微妙に濁らせたの?


「彼女じゃ…ないんですか」

かすかに残る、シコリ。
でも、不安や苛立ちはおさまった。






先輩わかる?
今の情報、夏菜には言いたくない。




「…美乃里、ちゃん…?」


先輩が右手を差し出す。

どうして?

こらえてるはずなのに、…涙が止まらない。

目頭が熱くて。


「う〜…」

小さな嗚咽が、喉の奥から出た。
こんな声出して泣くことなんて、小学生で卒業したはず。
…どうして?



「ゴメン、オレ…」


あなたは、悪くない。

誰も、悪くないんだよ。


ただ涙が止まらなくて。
ただハッキリと、明瞭に、――――…一瞬にして見えたの。




あの日。
合コンのあの日。








私はあなたに一目惚れしてたんだ…。


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