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雪村 聡
文化祭


ファミレスに到着した時には、膨れっ面の亜美ちゃん。

ごめんごめんと謝って席につく。
顔が真っ赤と指摘されて、さらに真っ赤になった。

…なんで私がこんなに真っ赤になるの。




「昨日ね、雪村先輩と電話したの〜」
「あいあい」

朝、学校に着くなり、呆れた顔をしたチハルとウキウキとした夏菜が目に入った。

「お、おはよう」
「あ、美乃里おはよう!」
夏菜が元気よく挨拶する。
「何の話してたの?」
「雪村先輩の話」
チハルがゲッソリとした顔で言った。
夏菜が「なによぉ〜」と言って、チハルを軽く叩く。
「…夏菜は…、本気なんだ?」
「私はいつも本気!」
夏菜がガッツポーズをして私に笑った。
これは…しばらく昨日のことは黙っていたほうがいいのかも…。
「実はね、今度文化祭があるの!美乃里とチハルも行かない!?」
「西高の?」
私がカバンを机に下ろして尋ねる。
「うん!先輩生徒会長だからめっちゃ張り切っててさぁ!」
「へぇ…」
なんだか夏菜の話し方が鼻につく。
それが何なのかはわからないけれど、とにかく夏菜だって私と同じくらいしか先輩を知らないくせに。
そんな感情が生まれて、私はハッと我に戻った。
私、なんて汚い考え。

「行く行く〜!そんな大チャンス逃すわけないっしょ!」
チハルの目がキラキラと輝き出す。
「美乃里も行くでしょ!?」
「え?」
正直…行きたい。
でも。



雪村先輩と行動するのは、夏菜なんでしょ?



「私は、行かないよ」
「えぇ〜!?」
夏菜が本当に残念そうな顔をする。
「その日、別の用事があるんだ」
「そんなの断っちゃいなよ!こっちは一生に一度のイベントだよ?」
「うん、でも…」


でも、なんだか行きたくない。






結局、あれから2人の強烈な交渉で、ついてこさせられるはめになってしまった文化祭。
共学ってこんなに仲良しな文化祭やるんだ…。なんか女子高とは違う雰囲気。


「あ!夏菜ちゃんに美乃里ちゃん!…それにチハルちゃんも!」


ニコニコして大きく手を振る雪村先輩。
思わず私たちも笑ってしまう。
あれならどこにいても見付けられる。


風船で作られた大きな入場門。
「文化祭」とポップ調に書かれた板の下で、先輩が「たこ焼き」と書かれたプレートを持って立っていた。


「先輩CMですか?」
夏菜が笑ってプレートを指差す。
「そう、バスケ部のヤツに頼まれてさ」
そう言って苦笑する先輩。
相変わらず元気。
「美乃里ちゃん、この前はどうもね」
「…えッ!ああ、まぁ…」
目を泳がせて2人から目を反らした。
ああ、先輩それ禁句!つか夏菜の目が見れないよ!
「…なに?何の話?」
夏菜の声のトーンがかすかに落ちる。
「いや、この前駅とかで傘貸してくれてさ」
「……駅…とかで?」
夏菜の顔が曇る。
それにも気付かず先輩はニコニコしていて。
「そう、とにかく風邪ひきそうなオレを助けてくれたわけ!」
ニコニコしてる先輩は、どう見ても憎めなくて。
なんとかその場は丸くおさまった…。






「ユキ先輩!そんなとこで何サボってんすか!」
前髪の長い男の子が、人ごみから走りこんできた。
…あれ?この人…
「ああ、エン!この子達、合コンで会った子」
雪村先輩が私たちを指差す。
けれど彼は雪村先輩の話も聞かずに私とチハルをマジマジと見る。
「あれ?…あんた朝…」
ドキ、と心臓が跳ねる。
うわ…知ってるんだ!
「あ、初め…まして」
「それに…チハル?」
「ひさしぶり…」

夏菜がニヤリッと笑う。
私たち3人は顔見知り。ならば2対3に分かれて文化祭をまわろうと考えてるに違いない。
「…じゃ、お先〜♪」
「ちょ!夏菜!?」
私は必死に夏菜へ手を伸ばしたが、…その手は空を切った。
どうすれってんだ!
私とこの人は…いちおう初対面なのに!





「…………………………………………………」



見事な、沈黙。

周りは活気に満ちて、笑い声が溢れているのに。
私達は3人黙々と歩くだけ。


「…えっと…2人は知り合い?」

私が耐え切れずに勇気を出す。
その質問に2人は目を合わせてすぐに目を反らした。
…あれ?…あれれ?

私…何か間違ったかな?

「エン、あんた何かしなきゃいけないんじゃないの?もう行ったら?…行こう、美乃里」
そう言って、チハルがグッと腕を引っ張る。
その力は半端なく強くて。
チハル…?



黙って歩く、西高校舎。
教室からは、たくさんの声。けれど、私たちは一言も交わさなくて。

不思議なことに朝の「彼」とチハルが知り合いだったのに、胸はまったく痛くない。
それよりも夏菜と雪村先輩が気になって。


…何をしてるんだろう…?












―――――…何時間経っただろうか。

3階の喫茶店で、チハルとケーキを食べた。
この時はもう普通の雰囲気に戻っていて。
さっきのシコリはあったけれど、問題なく食べていた。

ふと窓から下を覗く。
たくさんの人が行き来する正門前。
生徒や親、先生たち。

「ん?ねぇ、あれさ」
チハルが指をさす。
…私もチハルと同時に思った。



さきほどの風船の門に。

1人立ち尽くす夏菜の姿。
…私たちは急いで立ち上がる。



「夏菜!?」
チハルがすぐに駆け寄って、うつむく夏菜の顔をしゃがんで覗きこむ。
私も追いついて様子を見るが、夏菜のいつもの元気が全くない。
「…」
「夏菜?」
チハルが心配そうに必死に腕を掴んで振る。
「…ふられた」


それを聞いて、私たちは驚いた。
…夏菜はふられてこんなに落ち込むような女じゃないのに。

「結構…本気だった…のに」
「夏菜…」

チハルはもうそれしか言わなかった。



「てか勝てっこない!…あんな美人のカノジョ…」


夏菜はそう言って、顔に手を当てた。
私たちは人目を気にして門から出る。



夏菜は静かにそのまま帰っていった。
いつもよりもさらに小さな背中が痛々しくて。
そのあと、チハルがバイバイと言って振り返った。

けれど。

チハルが驚いて、今度は私に駆け寄った。

「どうしたの?美乃里泣きそうな顔してる」


…泣いてないよ。
そう言って笑ったと思った。
けれどただ口の端を持ち上げただけのかすかな苦笑。

…胸が押し潰されそう。


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