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雪村 聡
雨の日

今日は、ファミレスに行く予定。
どうしてこんな展開になったかと言うと、私が西高に通う中学校時代の友達に合コンの話をしたせいだ。

夏菜に負けないくらいミーハー精神が強くて、噂やおもしろいことは絶対聞き逃さない、ハンターみたいな友達、三谷野亜美ちゃん。
それで、合コンの話をしたら、詳しく話せと脅されたわけで。
私はにファミレスに行くために電車に乗っていた。



地元の駅を降りて傘を差した。
春先の冷たい雨。
駅前の開花している桜の木々にも容赦なく雨が降り注いでいる。
「…めんどくさいかも」
呟いて空を見上げた。
とびきり大きな雨の粒が鼻の上ではねた。
「あれ…?柄園…美乃里ちゃん?」


背後から聞いたことのある声。

「…雪村、先輩…」

駅の軒下で、雨宿りをしている先輩。
見ればワイシャツが濡れていて、…なんだか寒そう。
ツンツンの頭も、今日は元気がなさげ。


「…傘…ないんですか?」
「あっ、いや、あるよ?」

…どこに。
見るからに先輩は濡れて駅まできたようだ。
どうやら電車を待っているらしい。
…だけど。
本当に寒そう。

「あの…、これ…」
私はピンクの傘を差し出した。

「は!?何言ってんの!いいよ!いらないって!!」

「でも…」

「いいって!あと5分で電車くるんだ」


差し出した傘を、引っ込めた。
あと、5分なら…。


私は振り返って歩き出した。
亜美ちゃんが待ってるかも。



「…ヘックシ!!!!」

「………………」

…先輩…。

「…ホントにあと5分でくるんですか?」

「来る来る!」

『構内放送です。ただいま列車事故が発生しまして、復旧のめどがたっておりません。ご了承ください』


「…………………」
「…………………」

「あ、アハハ…」
先輩が、苦笑いした。
…ホントに、寒そう…。風邪ひいちゃいそう。

「…ウチ…」
「へ?」
「ウチ、来ますか?」

…私、大胆すぎじゃないですか?






なんであの時、あんな言葉をあんなあっさりと言ったんだろう。
男の人なんか自分の部屋に入れたことないのに。
あっさりと、先輩が座ってる。

「はぁ…タオルありがとぉ〜!生き返る〜」
ストーブにあたりながら、ニッコリと笑う先輩。
私も思わず微笑んだ。

「…いいんです。先輩ホント寒そうだったし。あ、これ、ココアです」
「え!?いいの!?」
先輩がひどく驚いてマグカップを受け取る。
「…はい」
「わぁ、美乃里ちゃんと結婚したら幸せかも!」
「え!?」
顔が一気に真っ赤になる。
先輩が驚いて私を見た。
「あ、いや、その、…そ、想像?う、うん…」
先輩は焦って片言。
過剰な反応をした自分に恥ずかしくなって、私は下を向いた。

「そういや、美乃里ちゃんとは合コンの時まともに話さなかったよね」
「あ、そうですね…」
夏菜が先輩を狙ってるからね…。
「美乃里ちゃんのタイプな人いなかった?」
「え…?あぁ…はい」
なんだか胸につっかえて、変な気持ちになった。
…なんだろう。
「先輩って、明るくて元気で、生徒会長なのが頷けちゃいます」
「え!?知ってんの!?」
「はい、譲くんが」
「ああ、譲ね」
先輩がそう呟いてココアを一口飲んだ。
「みんな、美乃里ちゃんみたいに言ってくるけど、オレ、昔はデブだったんだ」
「え!?」
突然の発言に、私は信じられなかった。
先輩がデブ?今はこんなにガッチリしてるのに。
「病気で、クスリの副作用のせいでデブっちょ。たくさんいじめられたよ〜」
下を向いて微笑んだ先輩は、なんだかいつもと違って落ち着いていて。
「そのせいかオレ、人を拒んだり冷たくしたりすんの、嫌いなんだよね。そうされる側の人間の気持ちよくわかるからさ」
「………………」

私は相槌すら忘れて、先輩のうつ向く顔を見ていた。
…なんて心がきれいなんだろう…。


「はは、引いちゃった?突然こんな話びびるよね」
「え?いや…」
「なんか美乃里ちゃんて聞き上手〜」
先輩がニヤリと笑って言った。

「こんなことサラッと言ったの、初めてだし」
はにかんで笑う先輩。

あどけなくて、いじらしくて。

「あっ!」
「え…な、なに?どした?」

ファミレス!!


「行かなきゃいけないところがあるんです!」
「マジ?やばい、帰るわ」
「ま、待って!」

…また、濡れちゃうよ。


「あの、傘、1つしかないけど…」

恥ずかしくなった。
なんで先輩ってこんなに私を恥ずかしくさせるんだろう。

「途中まで一緒に…」

うつ向いた顔のまま、目線だけ先輩に向けた。
はにかんで笑う先輩。
それがなんだかムズムズして。

「じゃあ、途中まで」


初めての相合い傘。
触れる肩にいちいち意識して。

歩いたのは50メートル程度だけど。




ドキドキはファミレスに着いても




おさまらなかった。





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