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山口 千明
図書館にて2

「あんたはここにいなさい」

チハルと夏菜に、肩を押さえ付けられた。
午後5時を回り、空は雨雲のせいで薄暗くなっている。

「私達は帰る。しかしあんたはここにいなさい」
「え??」

わけもわからず2人を見上げた。
「いい?私達は生物のレポートが1ページも進まなかった。つまりは死を意味するのよ」

…それは2人が、私と山口くんの関係を聞きたがったせいだと思う…。

「だから、言いたいことわかる?」

「…天才の山口くんにレポートを手伝ってもらえと?」
「ナイス、美乃里!」
夏菜が両手を合わせてウインクした。
…本気ですか。

「私、そこまで山口くんと仲良くないんだよ?」
「うちらよりは確実に仲良しだし」

「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「…わかった。頼んでみる」
「わぁ!美乃里ステキ★☆」

私はガックリと肩を落としながら、真っ白のレポート用紙をつまみあげた。
どんな罵声を浴びせられるんだろう…。


「…なんだよ」
2メートル先から、じっと見ていた。
かける言葉も見つかりません…。

「レポート…」
「ヤダからな」


ソッコー…即答。
私はため息をついて、クルリと向きを変えた。
自分で考えよう。3人分もつらいけど。


「1人分ならいいよ」

耳を疑いながら、振り返った。
…彼が頬杖をついてこちらを見ている。

「え…?」

ホントに彼が言った?そう疑ったけれど。
彼のほんの少し紅潮した頬が、事実だと教えてくれた。

「…ホント?」
「条件がある」
「なに!?なになになに!?」

私が目を輝かせて彼に近寄った。
なんだ、いいところあんじゃん!!

「100万ね」
「・・・・・・」

顔が、固まった。

…そうだった。コイツはこんなヤツ。

「いいや」
私は本気で諦めて、方向転換。

「1文なら、100円」

「・・・・・」

なに?
さっきより大幅値下げ。

「どうする?」

どうするって…。




彼の前に真っ白な紙を並べた。
ああ、誰から始めたらいいんだろう。

「生物ね…。簡単な科目」

イヤミをはく彼を、横目で睨んだ。
そりゃあなたとはレベルが違いますよ。

「とりあえず、3人に1文ずつ教えてください。300円。どうですか?」
「…それで許してやるよ」

…やっぱりこの人恩着せがましい。
彼が鉛筆で1文書いた。『遺伝子とDNA』について、見たこともない論理を書き上げていく。正直、ヒントにも何にもならないんですけど。
それよりも…きれいな手と字に魅了されて。
生み出されていく文字を目で追っていた。
「さ、書け」
「え…!?」
さっぱりわけのわからない言葉が大勢。なんで遺伝子をCとかNとかに置き換えるの!!
「書けないなんて言うなよ…?」
山口くんが…魔王に見えた。
私は腕をまくって、鉛筆を握る。
同じ高校2年生!なんとか書けるでしょ!

私は紙の隅に書かれた1文と睨めっこした。
集中しようと…した。

…でも、山口くんが頬杖をついて、こちらを見てくる…。
「なに…?」と聞いても、「やれよ」。
「山口くんは、本でも読んだら?」と聞けば、「飽きた」。



…集中できないんですけど!!

「お前って不幸だよな」
「な、なんで…?」
「犯罪に巻き込まれそうになったり、友達に宿題押し付けられたり」
「べ、別に不幸だと思ってないもん!」
「ふぅん」

彼はあっけない返事を最後に机に突っ伏してしまった。
普段は絶対見られないツムジが、あっさりと見える。


よし…やるぞぉ!!!!





「…っと、…ちょっと!…なた!あなた!!」
「は、は、はいっ!!」
背中を叩かれて、私は顔を上げた。
窓の外は真っ暗。時計を見れば、8時半をさしている。
「うわ、最悪!寝ちゃった…。なんで山口くん起こしてくれないの〜!!」
私は起き上がってガラリとした図書館を見渡した。
酷すぎだよぉ!
「レポートも終わってな…」


机に広がった、真っ白な紙。
…が。
真っ黒な文字に埋めつくされている。
見れば1つ1つテーマが違っていて。

「山口…くん…?」

静寂の広がる図書館に、その声だけが響いた。






「今回の宿題だが、みんなとても難しくて頭を悩ませたと思う」

先生が教壇に立って、咳払いをした。
「しかし、先生の思っている以上、みんなは頭がいいかもしれない。…柄園、吉川、笹山」
私と夏菜とチハルが、呼ばれて立ち上がった。
お、怒られる…?


「すばらしいレポートだった。先生は感動した!」

私達は目を合わせて喜んだ。
…すごい。すごいよ山口くん!


「すごすぎ美乃里!」
夏菜とチハルが、休み時間に私の席にやってきた。
「私、生物で誉められたの初めて!」
「私もだよぉ!」
私が書いたわけでもないのに、なんだから照れ臭くなった。

「…実は、…あれ全部山口くんが書いてくれたんだ…」
申し訳なさそうに、2人に打ち明ける。
「え…?」
「あれを…全部…?」
2人が顔を見合わせる。
「へ〜ぇ」
「ふぅ〜ん」

2人が意味深に笑う。
「え…何?」

「べっつにー」




…なに?


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