[携帯モード] [URL送信]

山口 千明
図書館にて
翌日。

私達は図書館に向かっていた。
理由は1つ。

生物のレポートの宿題がさっぱりわからない。

チハルや夏菜もお手上げ状態で、私達は3人で仲良く図書館に行くことに決めた。
どこかの本に書かれているものをそっくり写しちゃえば、バレないだろうっていう夏菜の提案が発端。

「てかさ、てかさ」

夏菜が身を乗り出して、私とチハルを見比べた。
「昨日の合コン…ぶっちゃけどう思う?」
そう言うと、チハルがすぐにため息をついた。
「はぁ。最悪な展開じゃなかった?あの山口千明って人?あの人西高じゃ有名らしいけど」
私はドキッとして、チハルに目をやった。
「え!?どいこと?」
夏菜の噂好きの血が騒いでいるようだ。興味津々な目でチハルに問い返す。
「かなりの天才らしい。しかもメガネとったら超イケメン」
「マジ!?」

図書館の静寂の中で、夏菜の驚愕の声だけが残響した。

…メガネを外したらイケメンなのは、私だって見つけてたもん。
心の中でチハルに言い返す。
「そういや昨日その人カラオケボックスに帰ってきて、雪村先輩に美乃里どこ行ったか聞いてきたらしいよ?会った?」

なんとなくドキッとした。
別に会ってたって悪いことじゃないのに。

「あぁ、うん、会ったよ。昨日怒鳴ったのゴメンって」
「へぇ〜」
夏菜が驚いた。
「オレ様みたいなカンジなのに、わざわざ謝りにくるんだね」
「悪いね、オレ様みたいで」


3人が一斉に肩を跳ね上げた。
「あ…」
夏菜が苦笑いをして振り返る。
そこには相変わらずムスッとした彼…山口くんが。
「いや、誉めてるんです」
夏菜が口の端をピクピクさせながら言った。
「今さら」
フンと鼻で笑うかのように、山口くんは夏菜から視線を離して歩いていった。

「うわ〜ここの図書館ご愛用だったのかよ〜」
夏菜が胸を押さえながら嫌そうに呟いた。

私は夏菜の言葉も聞かずに山口くんの背中を見ていた。
昨日もなんだけど…私はどうやら彼の背中を見るのが好きらしい。

「お、お礼言わなきゃ!」
私は弾かれるように席を立った。
「何の?」とチハルが言ったが、無視して走った。


「や、山口くん!」
高い本棚の間に、彼は重そうな本を広げて立っていた。
それだけでずいぶん様になってる。
「…あぁ、柄園か」
「……………」
「…なんだよ」
意外。
その一言につきる。
名前を覚えていた。普通に返してくれた。
「名前…、覚えてたんだ…?」
勇気を出して聞く。
すると彼はフンとまた鼻で笑うように返事をした。
「一度聞いたら忘れないんだ「天才」だから」
「天才」…。ずいぶん強調して言ってる…。
さっきの…聞こえたんですね?

「で、何?」
「あ、その…」
思い出して下を向いた。
なんだか言うのって照れ臭い。
「その…昨日の…ことなんだけど…」
「今日の新聞の一面見た?」
「んあ!?」
突然話題が切り変わって、私は情けない声を上げた。
口を押さえて赤面するが、彼はお構いなしのようだ。
「捕まったらしいね。連続婦女暴行事件の犯人」
「……………」
全身の血が、どこかから抜けた気がするくらい、私の体に生気がなくなった。
「え…?じゃあ昨日の…」
「たぶん、犯人」
あっさり返す山口くん。
いや、私とっても危なかったんだよね?
…そう思うと、言葉が自然と溢れ出た。
「あ、ありがとう!」
山口くんが本から顔を上げた。
「…は?オレが逮捕したわけじゃないけど?」
「違うよ!昨日…助けにきてくれたでしょ?」
「たまたまじゃん」
「そう…だけど…」
そこまで言って私は下を見た。
「ま、いいや。どういたしまして」

緑色のタイルの床しか映っていない視界の中に、真っ黒なローファーが入ってくる。
「友達、待ってるんじゃない?」
―――と同時に、頭に優しい痛み。
どうやら彼の持っている平べったい本に叩かれたみたい。
私は頭を押さえて振り返った。
…さっきまで重そうな本持ってたくせに。




…どうしてだろう。


どうしていつもこうやって、私はいつも彼の背中を見てるのかな。





[前へ][次へ]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!