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山口 千明
最悪な出会い



目をつぶって、誰にもバレないように深呼吸をした。
あと5分もすれば、合コン会場のカラオケボックスに到着してしまう。
行く前からさっそく後悔してしまった私は、緊張して破裂しそうな心臓を止める事で精一杯だった。
「大丈夫かぁ?美乃里ぃ」
夏菜が振り返って私の顔を窺う。
大丈夫!と笑って返す私。
本当はもう笑顔がひきつってる。
「まぁあとは慣れだよ。大丈夫大丈夫」
チハルが優しく笑いかけた。
その笑顔で、ほんの少し緊張が和らぐ。



本日の合コンメンバーは私を入れて、6人。クラスメイト3人をプラスして、カラオケボックスへと一緒に直行している。
チハルも夏菜も気合いを入れて化粧したようで、いつもより目鼻だちがハッキリしている。
なんだか冴えないなぁ、私って。


「ごめん!遅れた!?」
後ろから覆いかぶさるようなその声に、5人は一斉に後ろを振り向いた。
私も遅れないように後ろへ振り返る。
初めて見る、黒い軍団。自分より一回りも二回りも大きくてクラクラした。

「いや、今来たところだから」
チハルがさっぱりと返事を返す。
「そっか〜よかった〜!じゃ入ろうか!」
明るく元気な男の子が後ろの5人に声を掛ける。
そしてズラズラと列をなして入り口の中へ。


その、最後尾。

みんな茶髪とかなのに、1人だけ際立って真っ黒な髪の男の子が歩いている。
私はそんな彼に目を奪われた。
言ったら失礼だけど、とても自分と同じにおいがするんだ。



「・・・・・・・」


彼と目が合って、私は硬直した。
フレームのないレンズの奥の瞳は鋭くて。
「あっ…」


私は目を泳がせたまま、情けない声だけを発した。

氷のように冷たくて、北風のようにクールなその顔立ちは、感嘆のため息が出るほど美しくて。メガネが勿体ないくらい。



「…なに」

落ち着いた声で、私に一言呟く彼。

「いや………、きれい、だね」

愛想笑いして、顔を指差した。
今にも飲み込まれそうな、真っ黒な瞳。
彼は、アハハ…と感情のない声で笑う私にため息を吐いた。
「さっさと入れよ。言っとくけど、オレは女と出会いたいから来たんじゃない。人数合わせだ、人数合わせ。別の男探せ」

「!」


美しい顔立ちとは裏腹に、矢のような言葉。
まるで私が口説いてフラレたみたい…。

「・・・・・・・・・・・」


何か言ってやろう、と思った。
「あんたなんか好みじゃないわよ!オタクみたいなメガネしてさぁ!」
(チハルや夏菜なら、きっとこう言った…)
けれど口に出せないのが私。

さっそく話し掛ける相手を、私は間違えたみたい。
ほかはもうペアできあがってるし…。




もう一度彼をみあげる。


…睨み返された……


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