東城 円
出会い
目をつぶって、誰にもバレないように深呼吸をした。
夕方、繁華街四方木(よもぎ)町の駅前に到着した私たちは、これから合コン会場のカラオケボックスに到着して、相手の男性陣をワクワクしながら待っている…はずだった。
…どうしよう、すでに緊張して死にそうなんだけど。
横目で夏菜を見やると、彼女の顔は活気に満ちていた。
夏菜は好奇心旺盛だし、積極的だからな。
反対側を見ると、チハルがいつものように、サラサラのロングヘアをなびかせて歩いていた。
きれいな横顔だ。そうだよね、彼女はいつでも冷静。この緊張感からは無縁かな。
あと5分もすれば、合コン会場のカラオケボックスに到着してしまう。
行く前からさっそく後悔してしまった私は、緊張して破裂しそうな心臓を止める事で精一杯だった。
「大丈夫かぁ?美乃里ぃ」
夏菜が真っ青な私の顔を覗き込んだ。
大丈夫!と笑って返す私。
本当はもう笑顔がひきつってる。
「まぁあとは慣れだよ。大丈夫、大丈夫」
チハルが優しく笑いかけた。
その笑顔で、ほんの少し緊張が和らぐ。
本日の合コンメンバーは私を入れて、6人。クラスメイト3人をプラスして、カラオケボックスへと一緒に直行している。
チハルも夏菜も気合いを入れて化粧したようで、いつもより目鼻立ちがハッキリしている。
なんだか冴えないなぁ、私って。
勇気を出して乗り込んだ合コンだけど、残りの5人と私って明らかに雰囲気が違う。
なんていうか、自分でいうのもなんだけど、すごくまじめだな、自分って。
来なきゃよかったかも、なんて、いまさら思っても仕方がないんだけど。
夏菜とチハルって私とは全然違って、本当にかわいいななんて、ボーっと思っていた。
「ごめん!遅れた!?」
後ろから覆いかぶさるようなその声に、5人は一斉に後ろを振り向いた。
私も遅れて振り向いて………そのあと絶句した。
「あ…」
明るそうな少年の背後に、5人の男子が立っている。
こちらを見定めるようにジロジロ見てくる。
その中で、私は1人浮きだった存在を見つけた。
「朝の……人だ…」
気付かぬうちに呟いて、視線はもう彼に定まってしまった。
いつも見かける7時30分の彼。駅にはギリギリに着いちゃうけど、彼を見れば元気が出たし、憧れた。
そんな彼が…男性陣の中に混じっている。
「いや、うちらも今着いたとこ」
チハルがさらっと言って、「じゃあ入ろうか」と促した。
入り口を通る時には、すでに男が気に入った女子に話し掛ける。
私はその波に乗りきれず、ただみんなが扉を通るのを譲っていた。カバンを強く握り締め、さっそく強い後悔。
「入れよ」
上から声が落ちてきて、どこからかと見上げた。
「あ…」
それは、朝の「彼」だった。
私の理想どおりにたたずむ彼が、私に眼光を向けている。
「あんた、どっかで見たことあるかも?」
彼が首をかしげた。
「え!」
「いや、違ったらいいんだけど、まあ、どこにでもある顔だしね」
そう言ってクシャっと顔のしわを集めて笑う彼。
つられて私も笑った。
って、って!違うって!
どこにでもある顔って!
「いや、あの、私…」
それだけしか言えなかった。胸がドキドキして、声が上ずった。
恥ずかしくなって、顔を下に向けてしまった。
「とにかく入れ」
彼に背中を押される。
あ、あったかい…。そして強い。
私の背中をがっつり支えるその手…。
や、やばあ〜い…
部屋に入ると彼は私を追い越してソファの角に座った。
仕方なくその横におずおずと座る。
長い前髪が揺れて。
なんてきれいな横顔だろう。
カミサマ…。
高鳴る胸が痛くて、神様に祈りを捧げるしかなかった。
カバンを抱えるその腕に、さらに力がこもった。
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