らんま1/2で100のお題
005.格闘(良+乱)
ともすれば、弱い者イジメに見えかねないのだ。
おれと良牙の場合は特に。
まぁ、売られた喧嘩とは言え、あいつが立てなくなるまでボッコボコにしたおれも悪い。
でも仕方ないじゃねぇか。
そうまでしなけりゃ、這ってでも勝負続行をせがむ奴なんだから。
そんなこんなで、放課後の教室。
「ちくしょ〜」
罰として暫く此所で立っているよう、先公に言われてからもう小一時間。
流石のおれにも、そろそろ疲れの色が見え始めてきた。
勿論、普段のおれならばこれぐらい屁でもない。
しかし今は良牙との喧嘩の直後。
元々二人の実力は伯仲しているのだから、勝ちはしたとは言え、おれだって大分体力を消耗している。
加えて両手には2つの水入りバケツ。
これが思いの外、まるで重いボディーブローを喰らった時のように、じわじわと地味に効いているのだ。
「はぁ…」
溜息を吐きつつ、時計を睨む。
あの先公の怒り具合からして、まだまだ解放されそうにないようだ。
しかし、考えてみれば、別にクソ真面目にバケツを持ってる必要もないんじゃねぇか?
誰に見られてる訳でもねぇんだし…。
チラと弱い考えが頭を寄切り、思わずバケツを持つ腕を下げそうになった、その時。
“ガラッ”
いきなり、教室のドアが開いた。
「…お?」
もしや漸く先公の許しが出たのだろうかと顔を上げる。
しかし、おれの希望を裏切って、其所には先程保険室に運ばれていった筈の良牙が、仏頂面で突っ立っていた。
「良牙…」
勘弁してくれ。
まさか早くもお礼参りか?
些かうんざりしながらも、おれは近付いて来る良牙を上目で見つめた。
「まだやるつもりか? てめぇは」
「…何を勘違いしている」
「え?」
徐に此方へ伸ばされた手は、しかし意外にもそれがおれを傷付けることはなかった。
おれの右手からバケツを引ったくるようにして取り上げると、良牙は仏頂面のままおれの隣に並ぶ。
「…良牙…」
「言っておくが」
正面をしっかりと見据えて、良牙が口を開いた。
「きさまを庇うつもりは全くないからな」
「あん?」
「ただ、きさま一人がこういう目に合うのは、フェアではないと思ったからだ」
何だ。
一瞬、結構いい奴かもとか思ったのに。
「…あ、そう」
これ以上会話が弾む相手でもないので、おれは残ったバケツを両手で持ち直して前を向いた。
何か変な感じだ。
コイツと二人で立たされてるなんて。
「……」
何となく落ち着かなくて、ちらと横目で隣の様子を伺ってみる。
おれもかなりボロボロだが、良牙も絆創膏や包帯で体中ぐるぐる巻きだ。
明らかに、おれ以上に満身創痣といった感じで。
「……」
おれは慌てて目をそらした。
コイツをこんなにしたのが自分かと思うと、ちょっとだけ罪悪感が湧く。
いや、本当にちょっとだけだが。
「…良牙」
「何だ」
「その…、あれだ。…ありがとうな」
「礼を言われる筋合いはない」
「…そうかよ」
ホント素直じゃねぇや。
コイツも、そして律儀に相手をしているおれも。
何故だか妙におかしくなって、おれは良牙に気づかれないよう僅かに口の端を吊り上げた。
「次は負けんぞ」
「あぁ、楽しみにしてる」
きっとどちらかが完全に参るまで、このやりとりは続くんだろうと思う。
良牙は勝つまで諦めないだろうし、勿論おれだって負けてやるつもりは全くない。
喧嘩ではなく、おれ達は純粋に勝負がしたいのだ。
「…しかし、遅いな」
「もしかして忘れてんじゃねぇの、おれらの事」
「かもな」
だが、大人達の理解を得るにはまだまだ時間が掛かりそうだ。
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男子校時代の二人です。
まだ友達未満といった所ですかね。
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