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航海は非常に順調だった。
しかし、この大海賊時代に海で他の海賊に鉢合わないわけがない。


ドゴーンっ!!!
大砲の音が響く。
青年は新しくつけられた鎖を引き千切り、窓に近づいた。
黒い海賊旗を掲げた巨大な船が見える。
甲板には武器を持った男達がたくさんいた。


「何だ…あれは‥?」


もっとよく見ようと窓に張りついていると、背後の扉が勢い良く開いた。
そこに立っていたのはキッドだった。
まだ火傷の包帯は取れていない。
黒い毛皮のコートを羽織ったキッドは黙って青年に手を向けた。
どこからか飛んできた新しい鎖が、青年の体にぐるぐると巻きつく。
その勢いのまま、青年はどしゃりと床に倒れた。


「貴様っいきなり何…っ!?」


布を丸めた物を口に突っ込まれ、その上から布を巻かれる。
青年はモゴモゴとキッドに悪態吐いたが、キッドは綺麗にそれを無視した。


「良いか?鎖を千切るな、声を出すな、ここから出るな。破ったら死ぬほど啼かすからな」


言うだけ言って、ばたんっとドアを閉める。
そして厳重に鍵をかけ、南京錠までつけた。
部屋の外でそれを見ていたキラーが「そこまでするか」と思わず呟く。
キッドはそれも無視した。






銃弾が飛び交う甲板で、男達の怒号が響く。


「ロープ架かったぞー!飛び移れ!」
「皆殺しにしろっ!!」


血走った目で口々に叫び、笑いながら相手の頭を撃ち抜く。


「今日も今日とてイカれてんなァ」
「むしろこれが通常だろう」


キッドとキラーは短く軽口を叩いて、敵船へと飛び移った。







海上で激しい戦いが繰り広げられる中、青年は鎖を引き千切ろうと格闘していた。
幾重にも巻かれたそれを千切るのは流石に難しいらしい。
部屋の中を転がり回り、棚や壁やテーブルに激突する。

ドゴーン!ドゴーン!
と立て続けに大砲が鳴る。
船が大きく揺れ、青年の体は窓の方へ転がった。

そこで窓の外にいた人物と目が合った。
ロープにぶら下がった男が、床に転がった青年を凝視する。
青年も男を見上げて固まっていた。
一体そこで何をしているんだ?と言う風に男を見る。
男はそんな青年を見てにやぁ、と笑った。


激しい音を立て、窓が枠ごと砕け散る。
青年は咄嗟に転がって破片を避けた。
そして部屋に入ってきた男を見上げる。
いやらしい笑みを浮かべた男は舌舐めずりをした。
気持ち悪さに青年が眉を潜める。

ロープを使って乗り移って来たのは一人だけではなく、続いて二人の男が部屋に入ってきた。


「おい見ろよぉ、こんなとこに女囲ってたぜ」
「よっぽど大事みてぇだな」
「上玉じゃねぇか」


安い台詞を吐きながら、げへへと下品に笑う男達を、青年は何だコイツら?と呆れた目で見た。
その目が気に食わなかったのか、大斧を持った男が青年の胸ぐらを掴み上げた。


「あ゛ー?何だその目はよ?」
「今の状況分かってるー?」
「縛られてて、男に囲まれてんだよ?今からぐちゃぐちゃにして海に捨ててやっからなぁ」


男達の汗臭い手が、青年の下半身に伸びる。
しかし鎖が邪魔で脱がすことが出来ない。
戦闘で興奮したものを吐き出したい男達は、青年に巻かれた鎖を引っ張った。
斧男が舌打ちをする。
青年を床に寝せ、鎖に斧を振り下ろした。
ガキン!と硬い音が響き、鎖が切れる。
男達は我先にと青年の鎖をもぎ取った。
そして青年の口を塞いでいた布を取り去る。


青年は、赤い瞳を細めた。



「ご苦労だった。礼を言う」


重い手枷で男の頭を殴ろうとした時だった。
一瞬にして青年の視界から男達が消え去る。
青年が窓の方を見たのと、海に三つの水柱が上がったのは同時だった。

破られた窓の前に立っていたのは、怒りを露にしたキッドだった。

青年は今まで一度もキッドの怒りを目にしたことはなかった。
キッドが青年に暴力を振るう時、そこに怒りはない。
ただ青年の反応を楽しんでいただけだ。
しかし今のキッドは燃え盛るような怒りのオーラを放っていた。


大股で青年に歩み寄る。
鎖が取れたから逃げることも出来たのに、青年は動けずにいた。
キッドは青年の前に膝をつき、確かめるように青年の体を触った。
衣服の乱れもなく、顔に傷がついていないのを確認する。
青年はどうすれば良いのか分からず、ただじっとしていた。

確認し終わると、キッドは長く息を吐いた。


「…言っておくが鎖は千切っておらぬぞ」


妙な沈黙に耐えきれなかったのか、青年は慌てたようにそう言った。
外ではまだ戦闘が続いているらしく、ちらほら銃声が上がる。


「その、…あやつらが急に壁を壊して入ってきたのだ」


キッドは顔を上げて、青年の両肩をがっしり掴んだ。


「……な、何だ…?」


真っ直ぐ見つめられ、青年の赤い瞳に戸惑いが浮かぶ。
能力で縛られていない今なら、押し退けて逃れることもたやすい。
しかし、出来なかった。
青年はキッドの視線に縛られていた。

キラーあたりが敵船のクルーを皆殺しにしたらしい。
甲板から歓声が聞こえる。


「―…これだけは覚えておけ」


キッドが青年を抱きしめる。
広い胸の中に閉じ込められた青年は、驚きに体を硬直させた。


「お前は俺のものだ。誰にも触れさせねぇ」




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あきゅろす。
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