アニキの親切 * ルフィさんは、俺の故郷がイーストブルーにあったら嬉しいらしい。 まだ分からないと言うのに楽しそうに笑っていた。 「同じ海の仲間だ!」と言っていたが…海で故郷が分かれていると言う感覚がいまいち分からなかった。 俺は皿洗いを手伝った後、アニキに船の中を案内してもらった。 アニキは船大工で、サウザンドサニー号を造った人なのだそうだ。 こんな凄い船を造れるなんて、と尊敬の眼差しを向けるとスーパーに照れるぜ!と言っていた。 そして今、俺はアニキと一緒に本がたくさんある部屋に来ていた。 先にいたロビンさんが本から顔を上げて、にっこり笑う。 俺は会釈して返した。 「よぉ、邪魔するぜ」 「どうぞ、こっちに座って」 「あ、はい」 アニキとロビンさんに促されて椅子に座る。 ロビンさんは何やら古い本を読んでいた。 「怪我が治るまではあんま体を動かしちゃならねぇんだろ?」 「チョッパー君にはそう言われましたけど…」 「ならここで本を読んだりすれば良い。何か手がかりがあるかもしれねぇしな」 そう言ってアニキが笑う。 アニキの言うことはもっともなのだが、俺はどう答えたものかと困ってしまった。 ぐるりと部屋を見回す。 「何か気になるものはあるかしら?」とロビンさんに訊ねられ、俺は力なく首を振った。 せっかく親切にここまで連れて来てくれたアニキに申し訳なる。 俺は俯いたまま言った。 「すみません、俺、読み書きできないんです」 呆れられてしまっただろうか。 俺は学がない。 これは記憶がない云々とは別に自覚していた。 「あら、なぜ謝るの?」 「だって…せっかく親切にしてくださったのに…」 「別に悪いことじゃねぇよ、気にすんな!」 「俺の方こそ気が回らなくて悪かった」とアニキに謝られ、俺は慌てて首を振った。 アニキは悪くない。 俺が馬鹿なのがいけないのだ。 「いやそんな!俺が馬鹿だからいけないんです、すみません…」 「じゃあ、ここで読み書きを覚えれば良いわ」 「え?」 「そりゃ良いな!ユエ、ロビンに教えてもらえ。読み書きできて損はねぇからな」 アニキの大きな手のひらで頭をわしわしと撫でられる。 ロビンさんは机の上に紙やペンを用意してくれた。 じわじわと嬉しさが込み上げてくる。 「俺にも…出来るのかな‥」 小さく呟くと、ロビンさんがペンの先で俺の額をチョン、とつついた。 「あんまり気負う必要はないのよ?楽しんでやりましょう」 母親が子に見せるような、慈愛に満ちた笑みを向けられる。 俺は左手でペンを受け取ってコクコクと頷いた。 すると、アニキにまた撫でられた。 なんか、アニキとロビンさんって、お父さんお母さんみたいだ。 そう思うと、なぜか胸がチクリと痛んだような気がした。 でもそれ以上に嬉しかった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |