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嬉しくて

*

ユエは熱心に読み書きの練習をしていた。
ペンを握ったこともないらしく、左手の動きはぎこちない。
しかしユエの覚えの良さはロビンが驚くほどだった。
頭のできがどうこうではなく、ただ単に勉学に触れる機会がなかったのだろう。


「もうこのページの単語は書けるわね?」
「はい!」
「じゃあ確認しましょう」


ロビンの言葉にユエが元気良く返事をする。
部屋はユエとロビンの二人きりだった。
最初のうちはフランキーもユエの勉強を見てやっていたが、途中でナミに呼ばれ部屋を後にしたのだ。
あと途中でサンジが部屋に来た。
コーヒーとケーキを差し入れに持って来てくれたのだ。
女性限定のサービスであるが、そんなことは知らないユエは素直に喜んでいた。
コーヒーは苦手なようで、ミルクと砂糖を入れてどうにか飲んでいた。
そんなユエの様子を見てロビンとサンジが癒されていたことなど、ユエは少しも気づいていない。



カリカリとペンの音がする。
ユエは真剣な眼差しで紙に文字を書き連ねていた。
ロビンの書いた字をお手本にしているからか、文字の形は優雅なものだった。


「ロビンさん、出来ました!」
「あら、上手じゃない」


ロビンはユエから紙を受け取り、目を細めた。
最初の字よりも遥かに綺麗に書けるようになっている。
ところどころスペルミスがあったが、初めて字を学んだ者とは思えないほど出来が良かった。


「すごいわ。ユエ、あなた才能があるのね」
「本当っ?」


ぽぽぽっとユエの頬が赤くなる。
とても分かりやすい。
ロビンはユエの茶色の髪をやんわりと撫でた。


「えぇ、この調子で行けばすぐに読み書き出来るようになるわ」
「ありがとうございます」


緑色の瞳が嬉しそうに笑う。
天使のようなユエの表情に、ロビンは思わず胸がキュンとした。

ユエはロビンに添削してもらった紙を手に取ると、席を立った。


「俺、アニキに見せてきます!」
「ふふ、行ってらっしゃい」


ひらひらとロビンが手を振る。
ユエはペコリと頭を下げてから部屋を出た。
フランキーを探しながら船内を歩く。
すると丁度部屋から出てきたルフィと会った。
ロビンに褒められたのが嬉しくてテンションの上がっていたユエは、ルフィを見つけると直ぐ様駆けていった。


「ルフィさん!」
「おぉユエ!オメー今までどこいたんだ?さっきデケー魚釣り上げたんだぞ?」
「ロビンさんと一緒に勉強してました!」


ユエは誇らしげに紙を見せた。
所々間違いのあるそれを見て、ルフィは首を傾げる。


「これユエが書いたのか?」
「あの俺、読み書き出来なくて、ロビンさんに教えてもらったんです」
「へぇ、さっき習ったのに俺より字上手いな!」


ルフィは自分より背の低いユエの頭をくしゃくしゃと撫で回した。
ユエの顔が喜びでゆるむ。


「へへ、ありがとうございます」
「そうだ!今度俺に手紙書いてくれよ」
「頑張りますっ!」


ユエは一枚の紙を大切そうに持って、ルフィの右腕に自分の右腕を絡めた。
ぐっと拳を握る。


「約束です」


ユエはにっこり笑ってそう言った。


「おう、楽しみにしてるぞ!…ユエのとこじゃ約束する時腕を組むのか?」
「え?」
「だってコレ、そういう意味じゃねーのか?」


組んだ右腕を指差され、ユエは返答に困ったように眉を寄せた。
体が習慣として覚えていたらしい。


「えっと、たぶん…特に考えてなかったんですけど」
「そっか!なんか良いなこれ。ぜってー忘れないって感じが」


ルフィはそう言って、ユエの右腕にぐるぐると自分の右腕を絡ませた。
一瞬、ユエが目を見開く。
しかしそれは直ぐに笑顔に変わった。




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