昼食 筋トレを一通りこなしたゾロは、昼時になったのを見て食堂へと向かった。 そして中に入った途端、驚きに目を見開いた。 キッチンに立っていたのはサンジではなくユエだったのだ。 しかもサンジは何一つ手出しすることなく、ユエの料理する様をじっと見ていた。 女性の手を煩わせることを嫌うサンジにあるまじき姿だった。 ユエの手元を見つめるサンジの目は真剣そのものだ。 「…どうなってやがる」 「ユエさんが料理をしたいと申し出たのですよ」 ゾロの呟きに答えたのはブルックだった。 そう言われ、ゾロはユエに視線を戻した。 自分から申し出ただけあって、手際はかなり良い。 野菜を細かく切り、鍋へ移す作業は踊っているようにも見えた。 それくらいリズミカルで、テンポが早いのだ。 「アイツ、コックなのか?」 「どうなんでしょう?でも手際が良いですよねぇ」 香辛料の匂いが食欲をそそる。 その匂いに誘われたのか食堂には全員が揃いつつあった。 ユエが、ジャッ!と手早く料理を盛り付ける。 大胆な動きはその見た目と反して男らしい。 「出来ましたっ!」 ユエは料理の乗った皿を六枚一気に腕の上に乗せた。 そのままバランスよく運ぶ。 曲芸か何かを見ているようだった。 「これ、ユエが作ったのか?」 「うん、一品だけね」 目を輝かせるチョッパーに、ユエは笑顔で答えた。 トントンと皿をテーブルの上に並べる。 サンジが作ったのだろう、他の料理も、どうやって持ったのかと目を疑うほどの量を一気に運ぶ。 流石にサンジが「ユエちゃん危ないよ」と心配したが、ユエは特に気にした様子もなく「大丈夫ですよ」と笑った。 かなり手慣れている。 コックだったのか、レストランで働いていたのか、どちらにせよ素人の動きではなかった。 全員が席について昼食が始まる。 「この料理は、俺が作りました。助けてもらったお礼の気持ちです」 ユエは少し恥ずかしそうにしながらそう言った。 皆の視線がユエの作った料理に集まる。 「ユエ料理作れたのか!?すっげーなお前、コックなのか?」 「そんな凄いものじゃないですって、こう…何か体が覚えてたみたいで、それで作れたものですから」 大袈裟に褒めるルフィに、ユエは顔を赤らめた。 「覚えてるくらいだから相当作っていたのね」 「あら、それは楽しみだわ」 「もう、ハードル上げないでくださいよ」 「なぁ!食って良いか?」 ルフィが待ちきれない様子で言った。 「どうぞ」とユエが答える。 そして、サンジ以外の全員がユエの手料理を一口食べた。ルフィにいたっては、一口で、完食した。 沈黙が流れる。 皆、一切の動きを止めていた。 ユエは訳が分からずキョロキョロと回りを見た。 料理を食べていなかったサンジだけが、水をついでいる。 ウソップが震えながら口を開いた。 「かっ…」 「辛ぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」 ユエの手料理は信じられないくらい辛かったのだ。 ロビンですら口元を押さえている。 サンジは黙って全員に水を配った。 皆、その水を慌てて飲み干す。 一番苦しそうだったのは、一気に食べてしまったルフィだった。 ごきゅごきゅと水を飲み干す皆を見て、ユエはキョトンと首を傾げた。 「…辛いですか?」 「辛ぇだろうな。味付け見る限り」 「サンジてめぇ見てたなら止めろよ!?辛子が分かんなかったんだよな?ユエ」 冷静なサンジに、ウソップが怒りながら突っ込む。 そしてユエをフォローしたが、ユエは首を振った。 「辛子とか、調味料は分かりますよ?え、この味付け普通じゃないんですか?」 ユエが困惑した表情で回りを見る。 皆、この辛さは尋常じゃないとは思っていた。 しかしお礼の意を込めて作った物に対してそんなことは言えない。 空気を読まずに本当の事を言うルフィの口は塞がっていたため、食卓には再び沈黙が流れた。 ユエの顔色が悪くなる。 その時、ゾロが皿を手に取った。 ガツガツと料理を食べる。 ゴクリと飲み込み、空になった皿をユエへと差し出した。 「…おかわり、あんのか?」 [*前へ][次へ#] [戻る] |