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武勇伝

俺はサンジさんには蹴られていない。
ゾロさんが誤解しているみたいだからそう告げたのだが、ゾロさんは黙ったままだった。


「…ゾロさん?」


首を傾げると、ゾロさんから目を逸らされた。
ここまで露骨に逸らされるとショックだ。
最初からはっきりしない俺に苛立ったのかもしれない。


「…なら、良い」


俺が一人で慌てていると、ゾロさんがポツリと呟いた。
そして聞き返す暇も与えずに、背を向ける。

ばたん、とドアが閉まった。


「ったく、何なんだあのマリモ野郎。勝手に勘違いしやがって…」


何も言わずに立ち去ったゾロさんに、サンジさんが悪態をつく。
俺はとにかくこの場がおさまったことに安堵した。







食堂を後にした俺は、チョッパー君と医務室にいた。
頭の傷を診てもらうためだ。
チョッパー君は薬をつけると、器用に包帯を巻き直してくれた。


「すごい再生力だぞユエ!明日にはガーゼだけでも大丈夫そうだ」
「本当?」


チョッパー君の話によると、ちょっと驚異的な早さで傷が塞がってきているらしい。
言われてみれば確かに昨日よりは痛くない。


「チョッパー君の腕が良いからじゃないかなぁ」
「お、おい何言ってんだよコノヤロ〜!そんなの全然嬉しくねぇんだからなぁ」


うん、非常に嬉しいらしい。
俺はお世辞でも何でもなく言ったのだが、チョッパー君が喜んでくれて何よりだ。


「あ、でも念のため今日まで風呂は禁止な?あんまり体温上げるような事もしたらダメだぞ」
「はーい!チョッパー先生」


先生呼びすると、案の定チョッパー君はデレデレになった。
すっごく可愛かったから、またデレデレなチョッパー君を見たくなった時に使おう。

俺はチョッパー君にお礼を言って、医務室を後にした。



お昼まではまだ時間がある。
何をしよう。

また甲板にでも出てみようか。
海を見ていたら何かを思い出すかもしれない。

そう思って、俺は甲板に向かった。





*

ユエが甲板に出ると、釣りをしているウソップが目に入った。
ウソップもユエに気がつき、ちょいちょいと手招きしてきた。


「暇なら一緒にやるか?」
「え?良いんですか?」


ユエの顔が輝く。
やってみたかったらしい。
ワクワクとした様子が見てとれ、ウソップは笑った。


「おう、竿ならいっぱいあるしな。針には気をつけろよー」


自分の釣竿を傍らに置き、新たに別の釣竿をユエへ渡す。
釣糸にぶら下がった釣り針をユエはまじまじと見つめた。


「なんだ?釣りは初めてなのか?」
「えぇっと…たぶん、初めてだと思います。何と言うか、ピンとこないので」
「そうか。ま、この釣りの達人である俺に任せれば何の問題もないぜ!」


ウソップがドンと胸を張る。
その頼もしい姿に、ユエはぱぁっと顔を輝かせた。


「ウソップさん釣りの達人なんですか?」
「おう、今までで一番の大物はこの船より何倍もデカイ海王類でなー」
「かいおうるい?」
「あぁ、海王類ってのはとにかくデケェ海の怪物みたいなもんだ」
「それを釣り上げたんですか!凄いっ!」


ユエはつらつらと語られるウソップの武勇伝に興奮していた。


「―…あれは熾烈な戦いだった。海の上で飲まず食わず眠らず三日三晩、俺はそいつの口を押さえていた」
「三日三晩…っ!」
「やつが折れるか、俺が食われるか、死と隣り合わせの戦いさ」


ウソップが絶妙なタイミングで間を置くと、ユエは続きが聞きたくてウズウズしていた。
緑の目が期待に満ちている。

結局、その場にウソップの嘘を叩く人間がいなかったため、ウソップ武勇伝は昼前まで語られた。
そして、ユエの中でウソップは最強だと誤認識されたのだった。




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あきゅろす。
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