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12

 王宮には迎賓や執務用の城の他、王族の居住用の舘がある。それは長い通路で繋がっている。城の外観はそれは豪奢で、王族の権威を現すように見事な彫刻があしらわれていた。一方の舘は幾分か落ち着いている。
 廊下が大理石から絨毯の敷かれたものに変わる。アーベルは視線を上げた。この通路に天井画はない。奥にユリアンの寝所がある。今頃はきっと、午前中の帝王学の授業を終えたところだろう。

「14から王宮暮らしじゃな、遊ぶ暇も無かっただろう」

「それは騎士ならば皆同じだ。お前が珍しいんだぞ、不良従者」

「違う違う。酒場めぐりはジュリオ様に面白い話をして差し上げようとしているんだ」

 ヨハンの口は止まることを知らない。アーベルが相手だと余計に饒舌になるのだ。それはアーベルが無口だからか、気心しれた相手だからかは分からない。ただ、ヨハンは初対面から気さくなやつだったと、アーベルは思い出した。
 隊長からは正反対な2人だと言われるが、ヨハンの積極性から自然とペアで行動することが多くなっていた。こうして今も2人でユリアンの部屋に向かっている。
 アーベルは心が弾むのを感じた。あと少しでユリアンに会える。そう思って、最後の角を曲がった。

「キャー!」

「!?」

 突如廊下に響いた叫び声に、アーベルとヨハンは弾かれたように走り出した。声は突き当たりにあるユリアンの部屋からだ。まさかと思い扉を開けると、そこには悲鳴を上げる侍女数人と、蹲ったユリアンがいた。

「殿下!」

 アーベルは彼に駆け寄って、目を見開いた。腕を押さえたユリアンの袖が真紅に染まっていたのだ。ヨハンは部屋中に油断なく視線を走らせ、同じく飛んできた衛兵に指示を出していた。

「殿下、お手を、一体何があったのです!?」

「落ち着けアーベル……」

 ユリアンは青褪めた顔をして、ほうっと息を吐いた。彼の傍には割れた花瓶が散乱し、一円が水で濡れている。

「アンナが……!」

「どうしてっ」

 部屋の隅で震える侍女達は、泣きながら割れた窓ガラスを見つめていた。そこから風が入り込み、レースのカーテンを僅かに揺らす。
 誘われるように、アーベルはそこに近付いた。窓の周辺にガラス片は無い。内側から叩いて壊れたのだろうか、木枠が少しずれている。キー……と窓を開け放ち、ふと下を見た。

「……!」

「何かあったか、アーべル? ……あれはっ!」

 ヨハンも一緒になり、口を閉じる。遠い地面に、黒い給仕服を着た侍女がぐったりとうつ伏せになって倒れていた。

「アンナ……?」

 ヨハンの小さな呟きは、アーベルにしっかりと聞こえていた。



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