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京七小説

リサが扇を開いて口元に充てたのに気付いた七緒は、すぐに玉座の近くに寄った。
大事なことを思いついて言い付ける風を装ってはいるが、
大抵の場合目の前の誰かについてぼやくだけである。

「いつもながらひどい香水やな」
とか
「みてみ、あのドレス。デブに膨らんだもん着せるもんやないな」
とか
「化粧が濃すぎて頬にひびがはいっとる」

何を言われても表情を変えずに一礼して去らねばならないが、
リサのコメントはいつも的確で、七緒は笑いをこらえるのに苦労する。
今回は何を言うつもりだろう。七緒はことさらに真面目な顔で女王のそばで腰をかがめた。

だが、今回は愚痴ではなかった。
「左の列に新顔がおるやろ。京楽侯爵のとなり」

七緒は目をあげて女王の言われたほうを見た。

「はい、おられますが」
「何もんやと思う」
「たしか侯爵の弟君と伺っております」

京楽侯爵とその弟は、その背の高さや顔の造作、
無造作に束ねた長髪など似通っていたが、醸し出す雰囲気は違っていた。
いかにも貴族と言った風貌の兄に比べると、弟は野性的で危険な感じがした。

「他には何かしっとる?」
「いいえ」

してやったりとでも言いたげに、リサはクスッと笑った。

「貴族みたいななりしとるけど、あれ海賊やで」
「ええっ」

思わず声をあげてしまった七緒は、あわてて口を押さえた。
リサは笑顔のまま扇を閉じた。もう話は終了という合図だ。
七緒は釈然としないながらも一礼して自分の席に下がった。

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あきゅろす。
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