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京七小説

「七緒。今日は図書館に行こうな」
「はい」
図書館は書庫と書見室にわかれています。
書見室の隅に陣取ると、リサさんはいつもの大人の本を開いて言いました。
「私はここにいるから、好きなの探しておいで」
実は図書館で本を読むことのほかに、七緒にはもう一つ楽しみがありました。
書庫から書見室への帰り道、遠回りして庭を通ることです。
四六時中、いつも誰かに付き添われている七緒には、一人で庭を歩くということだけで、大冒険なのです。
先月寄付されたという新しい御伽草子を借りると、そっと廊下を抜け庭に降りたちました。

この図書館の庭は、何代もの神官長が作り足してきたもので、それぞれ風情の違う庭が石畳の小道でつながれています。
迷路のようになったその道は、四季折々何度通っても違う表情が見えて、飽きません。
今日はあの築山を回って行ってみよう。七緒は小走りで初めての道に向かいました。

築山を回ったところで道も庭も終わっていました。
その向こうには雲ひとつない青空と、大海が広がっています。午後の陽ざしに一幅の絵のような光景でした。
周りにはだれもいません。
この光景を独り占めしたようで、なんだか嬉しくなって七緒は思わず、微笑みました。そしてその場にそっと腰をおろしました。

そのとき、七緒は急に眠くなってしまいました。
夜の眠りが浅いせいでしょうか、七緒は時々すさまじい眠気に襲われて倒れてしまうことがありました。
それはたとえ食事中でも手習いの途中でも着替えのさなかであっても、その場に倒れてしまうほど激しいものです。
その眠気がこのときやってきました。早く立ち上がって、リサさんの所に戻らなくては、と思いつつも、七緒の意識は深い闇の中に沈んでいきました。


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あきゅろす。
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