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京七小説
9 黒土
「きっかけは3年前のことでした。花街近くの刑軍番所に生き倒れの女がはこばれてきたんすよ。かわいそうに、体中やけどや生傷だらけで、名前を尋ねても、ぶつぶつとうわごとの様なことをつぶやくだけ。
ただそのひどい有様なのに、身につけてるものやかんざしが良い品ばかりだったので、そこから調べてみたら、すぐに身元が割れました。
その子、花魁見習いの一人で、その2カ月ほど前に身請けされたばっかりだったとか。
かわいそうに、まだ15歳だってのに、老婆のように見えたって話ですよ。
「胸糞悪い話だ」
「まったくです。そんなわけで身請けした黒土って男のことが浮かび上がってきたんです。黒土屋ってのがまた胡散臭い店でね。表向きは船問屋なんだけど羽振りが良すぎる。御禁制の麻薬を扱ってるって噂もあってまあ、黒いうわさてんこもりなんす。
実はこの男、花街業界じゃあ有名人でね。さっきいった回状のなかで一番多く名前が出てくるのが、黒土って男なんです。舞うときの目つきが気に入らないだの、酌をするときの手つきが悪いのとつまらないことで難癖付けるんだそうで。しかも自分を振った花魁にはいやがらせをするし、門前払いした店には火をつけるし」
「もてない男はこれだから」
「でも、カネだけはあるんす。なんと、この10年間でいろんな店から女の子を5人も身請けしてる。しかも、大金はたいて」
「大奥でもつくろうってのか」
「ところが、あたしの調べてみたところ、どこにも女の子を囲っている様子がないんですよ。もちろん里に帰したあともない。あいつの屋敷で煙のように消えてしまってるんす」


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あきゅろす。
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