[携帯モード] [URL送信]

京七小説
8  喜助
大前田を追って花魁たちや太鼓持ちも出て行ってしまったので、京楽は浮竹と二人で部屋に取り残された。だまって酒を飲み続けていた京楽がぼそっと呟いた。
「一期一会……か」
「どうした」
「なあに。山じいに言われたことを思い出したのさ。その相手に対するは生涯一度と思え。戯れに立ち会うことなかれってね」
京楽は長いため息をついた。
「かわいそうなことをした」
「だが、本気でやったら数秒でけりがついていただろう。あれでよかったのさ」
「そう思いたいね」

そのとき、ふすまの向こうから声がかかった。
「失礼いたします」
太鼓持ちが、すすっと部屋に入ってくると優雅に一礼した。
「四楓院主人の浦原喜助でございます。今宵はとんだお手数おかけして」
 先ほどの軽薄な態度から一転して落ち着いてあいさつする様子は、貫禄すら感じさせる。
「あれ、じゃあ君がここの主なのか」
「夜一の夫の。そりゃすごい」
「どんなやつか、道場でも噂だったんだよ」
喜助はニヤッと笑った。
「あたしも京楽さんのお名前だけはぞんじあげていました」
「へえ、どこで」
「ここと隣の花街とで秘密の回状をやりとりしてましてね。お客様の情報を交換してるんすよ。このひとはうちでツケをためてるとか、この人は酒癖が悪い、とかね。京楽さんは、たしか太夫3人とわけありだから、かちあわないよう注意しろってね」
「僕の話は良いよ。」
「三つ巴の争いで大変だったらしいじゃないっすか。いや、男冥利に……」
「だからさ、やめようよ。そんな話。一献どうだい」
「そうすかあ。いただきます」
名残惜しげに話を切り、喜助はさされた酒を一気に飲み干すと、ため息をついた。
「どうも旦那には多大な協力をしていただいて」
「まったくだよ。それで大前田はどうした」
「それがあいにく逃げられちゃいました」
「やれやれ。吹っかけすぎたんじゃないの。50両くらいならやつも払っただろうに」
「ところが、ちょっとわけありで」
「そうだろうねえ。酒の肴にきかせてよ」
「そんじゃ、そもそものはじめから。最初にお詫びしておきますが、あんまり肴にしたくない話なんすよ」


[*前へ][次へ#]

9/22ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!