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京七小説
10
京楽は七緒に靴を履かせると、その足を持ったまま、わざとらしく驚いてみせました。
「なんと。ぴったりだ」
そして芝居がかったしぐさで七緒の手をとりました。
「おお、私はずっと、この靴の持主を探しておりました。どうか私の花嫁になってください」
 12時前までの、七緒であれば、うっかり流されてしまったかもしれませんが、
すでに一度泣いて夜風にあたり、すっかり平常心を取り戻しています。
目の前で返事を待つ男に、七緒は冷静に事実を述べました。
「お言葉を返すようですが。これは私の靴ではありません。現実はおとぎ話のようにはいかないものです」
 しかし、どんな事態にも臨機応変に対応できるのがプレイボオイ。
 この程度の肩透かしには動じません。
「つれないなあ。七緒ちゃん」
 京楽は余裕の笑みをくずさずに、立ち上がると言いました。
「男と女と馬車と靴。ついでに一目ぼれまでそろってるんだから、
ここは一つシンデレラってことにしておこうよ。
そうすれば皆ハッピーじゃないか」


朽木家に続いて京楽家にも。
その年の社交界新聞は二人のシンデレラの話題で大いににぎわったのでした。



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