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京七小説

「緋真さんがさがしてるよ。戻らないと」
泣いていたことを悟られまいと、顔を覆ったまま七緒は答えました。
「いえ。靴がみつからないので」
「明日明るくなってから探したら?」
そのほうがいいだろうと薄々思いながらも、七緒はかぶりをふりました。
「いえ。大事なものですから」
「じゃあ、僕も手伝うよ」
 京楽は七緒の手をとり歩き始めました。
 京楽と一緒にいるだけで、七緒はなぜか心細さがなくなっていくのを感じました。
持ってきてくれたランプのせいかとも思いましたが、そればかりではなさそうです。

そして何か温かい思いが体の中からわきあがってきます。
魔法は解けたはずなのに不思議なこと。

 京楽はあたりを見回して靴を探しながら、七緒に話しかけました。
「息子の嫁から逃げ回る朽木夫人が見ものだったよ。
あと社交界新聞の記者に緋真ちゃんが靴をなくした話をしておいたから、明日の記事が楽しみだねえ。
たぶんシンデレラだって書き立てるだろう」
「違います」
七緒は思わず訂正しました。
「あの二人はずっと長い時間をかけて、愛をはぐくんできたんです。
一目ぼれした王子様が靴を頼りにお姫様を探すような話と一緒にされちゃ困ります」
 こんなこといちいち反論する必要もないのです。がわかっていても止められません。
 それでなくとも、京楽さんに聞きたいこと(たとえば「さっきの女の人たちは何ですか?」とか「私のことどう思っているのですか?」とか「さっきのキスにはどういう意味が」など)を押さえつけているものですから、ついついチクチクとげとげした言い方になってしまいました。
「なるほど」
京楽さんは余裕です。くすくす笑いながら受け流しました。
そして、おや何かを見つけたようです。
ランプを置いてそれを拾い上げました。
「たしかに。そう考えてみると、君のほうがずっとシンデレラに近いねえ」
「……なんの話ですか」
京楽は答えず七緒の正面に立つと、礼儀正しくひざまづきました。
その手にあるのは、緋真の靴。
「さあ、どうぞ」
「ご親切に、ありがとうございます」

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あきゅろす。
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