京七小説 6 会場に入ってすぐ、恋人たちはお互いを見つけました。 「緋真」 「白哉さま」 緋真はすぐに恋人のもとに駆け寄るかと思われましたが、さにあらず。 彼女が駆け寄ったのは七緒の所でした。 緋真は親友の手をとって言いました。 「ありがとう。七緒ちゃん。一人だったら、絶対ここに来る勇気が出なかった」 うるんだ瞳で自分を見つめる緋真に七緒は言いました。 「緋真ちゃん。だめよ。今泣いたら、お化粧が崩れるわ」 「七緒ちゃんたら、ほんとにしっかりしてるんだから」 女たちは見つめ合ってくすくす笑いました。 招待客をかきわけてやってきた白哉は 緋真を守るように、その腰に手を回すと七緒に礼を言いました。 「緋真をつれてきてくれてありがとう」 「お礼なら、こちらの方にも」 「ああ、もちろん」 白哉は京楽のほうに向きなおりました。 「あなたにも感謝を。卿がお二人と旧知のなかとは知りませんでした」 「僕も白哉君がこんな美人と婚約していたとはしらなかったよ」 京楽の「婚約」という一言に、近くにいた招待客がどよめきました。 白哉が言いました。 「私の誕生日に日付が変わった後、発表する予定でしたから」 「おや、これは失言だったかな」 ですが、これは逆によかったのです。 情報通と見られたい社交界の人たちは、 この婚約の話を元から知っていたように振舞いました。 私は白哉様ご本人から聞いた、私は奥様から聞いた、と噂にたちまち広がっていき、 別の人との婚約発表をしてしまおうという 大奥さまのもくろみは崩れ去ることとなったのでした。 [*前へ][次へ#] [戻る] |