京七小説 3 朽木邸の車寄せに次々と馬車が止まり、 着飾ったドレスの貴婦人、シルクハットに燕尾服の紳士達が 次々と正面玄関に吸い込まれていきます。 しかし、何ということでしょう。 二人はそこに着く前に待ち構えていた執事に止められてしまいました。 「どうして入れていただけないのでしょう」 七緒が執事に詰め寄りました。 「何度も言っております通り、この招待状は本物です。 付添いの私はともかく、この子緋真だけでも中に入れてあげてください」 執事は朽木の大奥様から何か言い含められているのでしょう。ぐいぐい二人を押して、玄関から遠ざけようとします。 「あなた方のお名前は大奥さまの作られたリストに載っておりません」 「では、中にいる白哉様にお伝えください。ここに緋真が来ていると」 「できかねます。それに本日お招きしたのは紳士と淑女のみ。 歩いて来られるような方をお客様と認めるわけには参りません。お引き取りを。さもなくば」 執事は腰から銃を引き抜き、ぴたりと七緒に狙いを定めました。 「緋真とか申されましたな。友人を撃たれたくなければ、帰りなさい」 「緋真ちゃん。大丈夫、脅しよ。この人は撃ったりしないわ」 「そう。あなたがおとなしく帰ればうたない。だが、無理やりお屋敷の中に入ろうとするなら、どうなるかわかりませんぞ」 緋真はしばらく震えながら二人を見ていましたが、 「ごめんなさい」 と言い残し、来た道を駆け去っていきました。 友に追い付くことができたのは、屋敷からずいぶん遠ざかってからでした。 七緒は気弱な友の肩を揺さぶって言いました。 「緋真ちゃん。逃げてはダメ。白哉さんはあなたのために戦っているのに」 緋真ははかなげに微笑んでかぶりをふりました。 「いいのよ。これが現実。平民の私が白哉さまの奥方になるなんて無理だったの」 「彼はきっとあなたを待ってるはず。戻りましょう」 「無理だわ、それに、さっき走っているうちに靴を片方なくしてしまったの。もう、戻れないわ」 「靴なんかどうでもいいじゃない」 「でも」 [*前へ][次へ#] [戻る] |