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京七小説
7 試合2
二人は距離をとり、向かい合った。浮竹が審判を務めることになった。
「一本勝負。はじめ」
数回打ち合ううちに、素質ある子だとわかってきた。まず基本ができている。護廷道場にも同じ年頃の子が幾人かいるが、その子たちと比べても格段に良い動きをする。
これで、研さんを積めば一人前の剣士になれるだろう。
ただ、腕前はまだまだ京楽の敵ではなかった。加えて体格の差、力の差もある。わざとらしくなく面を打たせるには努力がいる。
押し寄せてくる軽やかな攻撃を打ち払いながら、京楽はどうしたものかと考えた。その時ふと、かかとに庭石が当たるのが感じられた。よし、これだ。
一瞬の判断で庭石に足を引っ掛けると、京楽は盛大にしりもちをついた。目の片隅に七緒が振りかぶった長刀が見える。あああれが降ってくるのかな。割と痛そうだ。まあ、これで体裁は整った。
京楽は目をつむって、来るべき一撃を待ったが、それはいつまでたっても来なかった。
ゆっくりと目を開くと、七緒は中段になぎなたを構えたままこちらを見つめている。京楽はため息をついた。
「なんで今打ちかかってこないの」
「父のなぎなたで卑怯な真似はできません。立ってください。」
「相手の隙を突くのは卑怯じゃないさ。それに櫛上げ式の費用はらってもらえるよ」
「面一本取ったらです。こんなんじゃ勝ったといえません」
「まじめだなあ」
「あなたこそ。どうして払いのけるばっかりなんですか。真面目に試合してください」
京楽はゆっくり立ち上がると、袴から土を払った。
「まいったね」
京楽は木刀を構えなおすと一瞬で七緒との間を詰めた。そして驚いた七緒が飛び退くより早く、長刀の穂先を軽く跳ね上げると、そこに自分の額をあてた。
「面あり、一本」
すかさず浮竹が宣言する。会場がどよめき、沸いた。
大前田が何か怒りの声をあげて太鼓持ちと何か言い争っている。周りの歓声にかき消されてよく聞こえないが、おそらく「いかさま」だの何だの言っているんだろう。
席に戻ろうとする京楽の前に、七緒が回りこんだ。
「だめです。まだ終わってません」
「いいの。君の勝ち。ここはだまって年長者のいうことに従っておきなさい」
「こんなの、ちゃんとした試合じゃないです。あなたが自分でぶつかっただけじゃないですか」
七緒は京楽の腕を引っ張りゆすぶった。
「ちゃんと試合して下さい。」
「だめだよ。可愛い七緒ちゃんにけがでもさせたら大変じゃないか、ね」
何かに必死になって涙ぐんでる女の子ってかわいいなあ、と呑気に考えながら七緒の顔を覗き込んだ次の瞬間、平手打ちが飛んできた。
「馬鹿にしないでください」
会場が一気に静まりかえった。そのため、七緒の言葉は近くにいる春水にはよく聞こえた。
「力が違うのはわかってます。あなたにとってはお遊びかもしれませんけど、私にとっては、一生最後の試合だったんです」
京楽はうたれた頬に手を当て、駆け去っていく七緒をぼうぜんと見送った。



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