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京七小説
5 後見人
試合は庭で行われることになった。
振り袖では動きにくいということで、着替えるのを待つ間に、長刀太夫が試合をするという話を聞きつけた人たちが次々と集まり、庭に面した部屋の廊下は黒山の人だかりである。塀の外からもたくさんの野次馬が顔をのぞかせている。
とにかく何とかして試合をさせようという魂胆だったらしく、話が決まってすぐに竹刀数本が享楽のもとに運ばれてきた。
「用意のよろしいことで」
その中の一つを適当に手に取ってかざす京楽に浮竹が声をかけた。
「すまんな。助かったよ。遺言のでっち上げ」
「なかなかそれらしいだろ」
「ああ」
「お前が相手したら相手の思うつぼだ。また、かたき討ちとか何とか書き立てられる。すぐに終わるよ……ほんの戯れさ」
「ああ。それにしても、あいつ、いい気なもんだ」
浮竹は試合場所の正面、特等席の桟敷にいる大前田のほうに目を走らせた。

 両側に花魁を侍らせてご満悦の大前田のもとに、太鼓持ちが揉み手をしながら、すり寄った。
「七緒ちゃんへの御褒美を決めていただきたいなと思うんですけど、どうざんしょ」
 大前田は持っていた杯から酒がこぼれるほど大笑いした。
「おおい。京楽。きいたか。この太鼓持ちは七緒が勝つというておる。」
 太鼓持ちはあわてて手を振った。
「滅相もない。ただ、ご褒美があったほうが張り合いが出るというものじゃござんせんか」
「ま、いうてみい」
「見事一本取ったとしたら、櫛上げ式の後見人をおねがいしたいんすけど、どうざんしょ」
「ほう。もうそんな時期か」

浮竹が京楽に尋ねた。
「櫛上げ式ってなんだ?」
「一人前の花魁としてお披露目する儀式だよ。服から帯からかんざしなんかすべて新調しなくちゃいけないし、置き屋の女将が勝手に婚礼衣装やら家具やらを買い込んで、その分の請求書を回してくることもあって、おっそろしく金が要るらしい。たしか費用は後見人が持つ」
「後見人がいないとどうなる」
「もちろん本人の借金になる」
浮竹は顔をしかめた。


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