京七小説
そして
七緒ははじかれたように起き上がると、庭に続く扉を開けた。
煌々と月が青白い光を落す庭からは整えられた木々が美しい。
だが、その光景が見えたのは一瞬だった。京楽が目の前に立っていた。
言葉は交わさなかった。ただ、見つめ合った。
月明かりの中、京楽が自分にほほ笑みかけたのがわかった。
いたずらっ子のような、どこかはにかんだような笑顔を見て、七緒はもう手遅れだったと悟った。
自分は京楽にどうしようもなく惹かれている。こんなに彼を求めている。
だから、今夜のことを後悔すまい。たとえ、すぐに忘れられたとしても。
七緒は微笑み返した。そして京楽のために大きく戸を開けた。
あらかじめ決められていたかのように、京楽が部屋の中に滑り込む。
戸を閉めたとたんに、七緒はふわりと抱き上げられ、まだ温かみの残っていた布団に横たえられた。
緊張のせいで身を固くした七緒に対し、京楽の動きは滑らかだった。京楽は七緒の口をとらえ、深いキスをした。ひげが優しく彼女の頬をこする。
帯を解き、寝巻きの中に滑り込んだ京楽の手は、肩から胸、そして腰から太ももへと探索の範囲を広げていった。
首筋に顔をうずめていた京楽がかすれた声で尋ねた。
「七緒ちゃん、怖いの?」
そう聞かれて初めて、七緒は自分がかすかに震えていることを知った。
必死でかぶりを振ると、京楽は軽く笑った。
「僕の可愛い七緒ちゃん」
こんなふうに京楽にささやかれる夢を幾度も見たことをふと思いだし七緒は目を閉じた。そして京楽の首にまわした腕に力を込めた。
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