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京七小説
京楽と七緒 3
 七緒は顔を赤らめながら説明した。
「私が乱菊さんに相談したのは、隊長のことです。そうしたら、彼女が、隊長は私のことをどう思ってるか聞いてきてあげるって言ったんです。ですから、さっき遠まわしに私のこと拒絶なさったんだろうと思って」
 京楽は話が飲み込めないらしく、しばらく目を瞬かせた。
「ちょっと待って。僕、10人と付き合ってこいなんて言ったことないよ」
「私も言ってません。ただ、隊長とおつきあいするには、まだまだ経験が足りないとは言いました。おそらくそれを乱菊さん風に解釈した結果、そういった誤解を生む表現になってしまったのではないかと思われます」
 照れ隠しもあって、七緒の説明は必要以上に事務的だった。最初はいぶかしげに聞いていた京楽の顔に、徐々に笑みが広がった。
「なるほど。そういうことか」
「はい」
「よかったぁ」
急にぎゅっと抱きしめられたので、七緒はあわてた。「あのっ。隊長」 
 いつもの癖で七緒は腕から逃れようともがいた。だが、いつもならすぐに解放してくれる京楽は、この日は腕を緩めようとはしなかった。
「昨日は心配で眠れなかったよ。僕の大事な七緒ちゃんが、僕の手の届かない所に行っちゃうと思うとさ」
 背中をなでられ、彼の体温を感じながら、七緒は自分の肩の力が自然と抜けていくのを感じた。
 彼の体からはいつもお酒の匂いがすると思っていたが、もしかしたら、お酒のように人を酔わせる何か別のものの香りかもかもしれない。
 七緒はうっとりと京楽の胸に身をゆだねた。
 京楽の指が七緒の首筋を滑り、ほおをなでる。
「経験なんて必要ないよ。こういうことは感じることが大切」
「いえ、経験というのは副隊長としても、まだまだだという意味で……」
 京楽がのどの奥で低く笑った。
「そっちは大丈夫だよ。自信を持って」
「ありがとうございます」
 あんたに足りないのは自信と勢いよ。乱菊の言葉を思い出して、七緒は微笑んだ。今度会ったらまずお礼を言わなきゃ。
 でも、今は。
 七緒は京楽の硬い肩に手を置き、引き寄せられるままに背伸びをした。そっと唇が重ねられる。二度。三度。ついばむような優しい口づけを交わすたび、快い感覚が七緒の体中に広がっていった。

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