京七小説
京楽と七緒 1
あとすこし。七緒は終業時間をじりじりしながら待っていた。働き始めてからこんなに終業時間が待ち遠しかったことはない。
原因は京楽の態度にある。今日は天気もいいし、それほど仕事が忙しいわけでもないから、いつもなら散歩に出かけているはずなのに、なぜか一日執務室にいた。
そのうえ態度がなんだかよそよそしい。それでいて、ふと気付くと何かもの言いたげな視線を投げかけてきたりする。一緒にいて気づまりだと思うなんて初めてのことだ。
もしかしたら乱菊が何か話したのかも、ということに思い至った七緒はいてもたってもいられずに乱菊に連絡を取ろうとしたのだが、あいにく10番隊は現世出張の準備とかで忙しいらしく、なかなか捕まらない。仕事が終わったらすぐに直接行って話を聞こう。
「では、失礼いたします」
終業時間と同時に七緒は立ち上がったが、出口に向かいかけた所を呼び止められてしまった。
「七緒ちゃん。少し、話をしていいかな」
いちいち断るなんて。ますます嫌な予感が募る。だが七緒は「どうぞ」と答えた。
「昨日、乱菊ちゃんと飲んだときにね。恋する女の子の話になったんだよ。真面目でメガネの」
京楽はゆっくりと近寄ってくると、あくまで優しい口調で続けた。
「これ、七緒ちゃんのことだよね」
心臓が早鐘のように打ち始めた。乱菊はいったいどんな風に話をしたんだろう。探りを入れるだけのはずなのに、こんなばれるような話をしたのだろうか。
だが逃げるわけにもいかない。
「はい」
「人の恋路に口を出すのは野暮だとわかってるけど、忠告させてもらうよ」
「はい」
「その男はやめておいたほうがいい。つきあっても七緒ちゃんが傷つくだけだ」
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!