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京七小説

次の日の朝から、七緒は悶々とする羽目になった。
いつもより早く出勤して昨夜の痕跡を消そうとしたのだが、
時間がたっていないせいか記憶が生々しすぎてそれどころではなかった。
机に手が触れれば、この冷たさを背中に感じたことを思い出すし、
椅子のきしむ音を聞けば、同じ椅子の上でさんざんゆすりたてられて、必死で声を押さえていたことを、
つかんでしわになった書類や口紅の付いた書類を見れば、ここに顔をうずめて後ろから貫かれたことを思い出す。

見るもの聞くものすべてが昨夜のことを思い出させ、体が疼く。
隊長がいないのだから、探しに行かなくて済む分だけ仕事がはかどりそうなものだが、
昨夜の記憶に責めさいなまれて、本当に一日仕事にならなかった。
なにが悔しいって、この事態を引き起こした張本人に文句を言えないことだ。
一夜明けた後の七緒の体たらくを知らせたりしたら、ますます調子に乗るに違いない。

隊長の行為は、私の仕事が進まないようにするのが目的だったのよ。
自分が帰ってきたときにし残業しなくて済むように。そうそう思い通りになってたまるもんですか。
むりやり色気のない方向に思考を振り向けることで、七緒がようやくいつものペースを取り戻したのは夕方になってからだった。

今すぐ忘れてやる。
決済待ちの書類を山のように積み上げて、いつもと変わらなかったところを見せつけてやるんだから。
とりあえずこの時点での七緒の決意は固い。

だが残念なことに一週間後、無事に帰還した京楽と執務室で顔を合わせたとたん、忘れたはずの記憶は盛大にフラッシュバックしてくる。
思わず頬を染めて目を伏せた七緒の態度は、図らずも一夜の効果の程を彼に悟らせ、喜ばせてしまうことになるのだった。


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