京七小説
八 1
京楽 次郎 総蔵佐 春水
右の者を護廷十三隊及び、一番隊総隊長に任命する。
「勘弁してよ」
辞令に対する京楽の感想はそれだけだった。
隻眼を窓のほうにむけたまま、無言でたたずんでいた。
昇進なのだから、祝いの言葉を述べるべきなのかもしれない。
だが、山本総隊長の死を悼み、打ちひしがれている京楽が、
そのあとを襲ったことを喜ぶとは思えなかった。
七緒はただ、事実のみを述べた。
「順当な人事と思います。すべての隊の立て直しを急がなくてはいけません」
「ああ.そうだね」
振り返りもしないまま返された、京楽の応えはひどく虚ろだった。
たぶん、なにも映さないような遠い眼をしているんだろう。
そう思うと痛ましくて、七緒は思わず京楽の背に手を伸ばしていた。
「ん、なに」
「あっ。失礼しました」
隊長があまりにも頼りなげだったので、とは言いだしかねて、七緒はあわてていいわけした
「あの、羽織の八の字は、このへんだったかなと」
「ああ、どうだろう。自分じゃ見えないなあ」
肩越しに振り向いた京楽がかすかに笑う。
「見おさめだし、見るかい」
京楽は着物を肩から滑らせた。
久しぶりに見る羽織の数字は、思ったより少し下にあった。
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