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ふたつならんだ

少年期ディルディナ。

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「じゃーん!」


目の前に差し出された二対のマグカップ。真っ白なカップに片方は真っ赤な、もう片方は青色の花柄が映える。

やけに嬉しそうな笑顔でそれらを差し出しながらディーナは声高に続ける。


「マグカップ!今日町で見つけたの!お揃いだよ」


「……で?」


何がそんなに嬉しいのか。マグカップなどそこに液体を注げれば十分な代物だ。そのデザイン等には興味はないし、同じようなカップが2つあるからといってそこに何の意味があるというのか。


「つれないなあ……せっかく一緒に使おうと思ったのに」


唇を尖らせて、ディーナは不満げに此方を見つめる。どうしてそんなに不満なのか。訳がわからない。


「お揃い。嬉しくないの?」


「別に。嬉しくもなんともない」

「そんなあー」


「何故お揃いだと嬉しいんだ?」

俺が問うと、ディーナはがっかりしたように消沈し、ため息。「もういいよ」とだけ言って奥の部屋へといってしまう。

結局何がしたかったのだろう。
俺の言動が彼女の気分を害したのだろうか。だとしたら納得がいかない。俺にしてみれば意味のわからない行動をして勝手に不機嫌になられたのである。苛立つのは此方の方だ。



それからしばらく、あのマグカップは誰にも使われることなく戸棚の中に並んでいた。俺は勿論使わないし、ディーナの方も何故か使うことはなかった。
彼女の機嫌は直った様だが、仲良く並ぶ二つのカップを見ては、少しだけその表情を曇らせる。


一体あのカップに何があるというのだろう。何の変鉄もない二対のマグカップが、どうして彼女を憂鬱にさせるのか。
俺は少しだけ興味が湧いた。知りたいと思ったのだ。『お揃いのカップ』が彼女にとってどのような意味を成すのか。



その夜。一日の訓練メニューを終えたディーナが、リビングにひとり。そのタイミングを見計らって、俺は動く。ぼんやりと中を見つめる彼女の眼前に、マグカップ。


「へ?」


間抜けな声と共に、驚きとともに見開いた目をこちらに向けた。蒼い瞳に俺の姿が映る。


「ん」


差し出したカップを彼女の前に置く。トン、と陶器が机にぶつかる音。注がれたココアが小さく揺れる。


「あ、ありがとう……」


カップを受け取ったディーナが、未だ驚きを瞳に湛えて呟く。
彼女の白い手の中に、赤い花が咲く。一方、俺の手には青い花。


「これでいいのか?」


「え?」


「嬉しい、のか?」


まっすぐな蒼の瞳に向かい、問う。すると今度はいきなり、彼女が笑いだした。


「何がおかしい」


「ううん。ふふっ、なんでもないよ」


不機嫌になったかと思えば笑いだす。嬉しいかどうか聞いただけなのだが、何がそんなに可笑しかったのだろう。


「……意味がわからない」


「うん。嬉しいかも。ありがとうね、ディル」


笑みを堪えながら、にこりと微笑む。


「そうか」


嬉しいのなら、それは良かった。口元にカップを運んで、一口。

結局どうして嬉しいかも、『お揃いのマグカップ』の意味もわからないままだが、甘いココアがいつもより少しだけ美味しく感じられた気がした。








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