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黎明のこえ3
 徐々に空間に目が慣れてくると、足下を僅かに照らすだけの非常電灯がぼんやりと映し出す施設の輪郭が見えてくる。

「電気系統は完全に停止しているみたいだ。まっくらで視界が悪い」

 マフラーを口元を覆うように引っ張って、ダズが目を細めた。

「そうだね。とりあえず、足下が見えるのが救いかな」

 非常電灯の緑色のライトが、等間隔で光を放っている。それは暗闇の正体が長く続く廊下であることをあらわしていた。

「廊下の奥に扉が見えるな」

 暗闇の奥に目を凝らして、ディルが何かを見つけたようだった。

「扉……? というか、見えるのか? 俺にはさっぱり……」

「そうか、ディルは目が良いんだったね。前の任務の時も暗闇を平気で歩いてたっけ」

 ベルザークでの国境任務で、ディルは暗闇をものともしていない様子だったことを思い出す。
 ディーナもまた、狙撃用の武器を使っているだけあり視力には自身があるのだが、そんな彼女でさえ彼の言う扉をとらえることはできなかった。

「あの扉の先に何かがあるかも知れない。電気がないとは言え警備装置がまだ作動している可能性もある。慎重に進もう」

 ゆっくりとした足取りで、慎重に前へと進んでいく。
 暗順応。ゆっくりと暗闇に目が慣れてくると、照らされている足下以外の様子も、ぼんやりと理解できるようになる。
 人の手から離れた途端、建物の風化は急激に進んでしまうものだ。外壁からもその退廃は読みとれたが、内部もまだひどいものだった。
 壁の至る所はひび割れ、蜘蛛の巣がそこら中に巡っている。鉄格子によって閉鎖された窓は、その上からさらに鉄板に覆われていて、いっさいの日の光を通さない。
 高い天井には大きな四枚羽根がぶら下がっていた。おそらく施設内のよどんだ空気を循環させるためのファンだろう。今はその役割を停止して、ただの飾りになり果てている。
 それを避けるように配置されたパイプがまるで血管のように何本も、施設内をはしっていた。こちらは何本かは現在も機能しているようだ。管の中を通るかすかな水音が、どこからか聞こえてくる。

 静かな空間に、三人の足音が響く。
 廊下の果てにはディルの言ったとおり大きな扉が存在していた。
 内部の機密を守っていたのだろう。そのつくりはとても厳重そうで、二枚の大きな金属の固まりがしっかりと行く手を拒んでいた。
 扉の脇には小さな機械が設置してあり、おそらくここにパスワードを打ち込むことで、扉が真ん中から左右に開くのだろう。



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あきゅろす。
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