黎明のこえ2
自分たちは、有核生物と軍の関連を調べるために今回この軍の研究施設にやってきたのだ。廃棄された実験施設と本来行うべきでない有核生物の実験との関連性が高いと判断されたことから、ここを調べることで大きな手がかりを得られる可能性が高い。
しかし同時に、この任務は軍との関係性に亀裂を生むリスクと隣り合わせだ。いままで軍とは中立の立場として友好的な関係を気づいてきたが、何の了承もなしに彼らの所有地、しかも極秘研究を行っていたであろう施設に入り込むのだ。万が一見つかってしまった場合、彼らとの関係が悪化してしまうことは想像に容易い。
だからこそ、慎重に行かなくては。
此処で得られることは、ディーナ自身も知りたいことである。絶対に失敗できない。
ちらり、傍らの銀灰色の少年に目をやった。
ディルは至っていつもと変わらない様子で、目の前の建物をじっと見つめている。その表情だけでは、何を思っているのかは分からない。
前回の任務を終えた後、ダズたちから話を聞いた。オークション会場に現れたという、謎の少女の話。
彼女の存在を、ディルは気にしていたという。
ディーナにとって、なんとなく、それが気がかりだった。
そこに特別な感情が在るわけではない。あったとしても、それは家族の一人を気にかける気持ちだ。少なくとも、彼女自身はそう思っている。
そのとき、彼に何があったのかはわからない。彼は何も話してはくれないから。しかし、今この瞬間、この場にいる彼の心境に何らかの変化をもたらしているならば、それを知りたい。そう思うのであった。
何ができるわけではないが、それでも、何も知らないよりは力になれる。彼はそれを望まないだろうけれど。
いけない、すっかり思考がはずれてしまった。
ディーナは小さく頭を左右に振ると、再び意識を目の前の建物へと集中させる。
深く息を吸い、吐き出した。
「――さあ、行きましょう」
それを合図に、リイラはより強力な術式を展開。警備に当たる軍人全てに自分たちの姿を認識させず、何事も起こらない、いつも通りの光景を見せる。
彼らが堂々と警備の前を通り、堂々と扉の前にたっても、軍人たちの目には何一つ変化のない光景が映っているだけ。
研究施設の入り口となる大きな扉は、茶色く錆び付いたそれはよく見ると違和感があった。
「扉の錆び付きに対して、鍵はやけに綺麗なんだな」
「……人の出入りがある、ということでしょうか」
人を拒んでいると思われた建物と外壁の間に伸びている雑草たちは、外壁の入り口こそ塞いでいたものの、研究所自体の扉周辺にはいっさいその根を伸ばしていない。最初見た印象よりも、人の進入は容易なようだ。
長く伸びた外壁の入り口の雑草はその内側の様子を覆い隠すようになっており、外側からだと扉周辺の様子は見えづらい。
「まあ、私たちの姿を隠してくださるなら好都合です。私はここで、この建物を覆う幻術をかけます。術が展開したら、みなさんは中へ」
鈍い音とともにゆっくりと扉が開く。
外の快晴とは打って変わって、埃にまみれた陰湿な世界が広がっていく。
中へと進む。明暗の落差、暗闇に視界が奪われる。呼吸の度に肺に流れ込んでくる薄汚れた空気にせき込まぬよう口元を覆う。
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