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黎明のこえ13

「く、そが……!」

 たたみかける轟音に、身を焼く熱と引き千切られるほどの痛み。
 防戦一方のディルはなんとかこれを払い除けようとするが、猛襲は止むことを知らない。
 一撃の爆発に重みはないが、小さな攻撃を絶え間なく繰り返すことでじわじわといたぶられていく。ニナはこちらを弄んでいるのだ。

 こちらの攻撃が相手に届かない訳ではない。
 今も、ディルの生み出した風の刃がニナの身体を切り裂いていく。
 だが、それも彼女にとっては意味をなさない。どんなに身を切り裂かれようと、瞬く間に彼女の身体は再生していき、傷一つ残ることはない。

 なんとか反撃の糸口をつかまなくては。こちらの身体が爆撃に耐えられなくなってしまう。

 ――考えろ。奴はコアを持つ獣と同じだ。獣たちも傷をいやす再生力をもっているが、それには限界がある。コアを壊せば、奴らは倒せる。ならば……

 強く地面を蹴ると、ディルはニナの元へと飛び込んでいく。
 
 ――感じろ、奴のコアは何処にある?

 絶えず襲い来る衝撃を振り払って、意識を集中させる。今なお強く自身を呼ぶ気配の、その真の在処を探る。

 その距離は零。

「!」

 ディルの行動を予期していなかったのか、ニナ動きがわずかに鈍る。
 
「これなら爆発は起こせないだろう? てめえのコア、ぶっ壊してやる」

 右掌に一気に風を収束させ、小さな風の球体を生み出す。台風ほどに高まった風のエネルギーがコアもろともニナを破壊せんと叩き込まれる。

「う……あ……っ!?」

 うめき声を上げたのはディルだった。
 収束したエネルギーが分散し、ニナへ届くよりも前に空間へ流れ消えていく。
 突如として、力の制御が出来なくなったのだ。
 
 
 ――くそ、よりによってこんな時に。

 びりびりと思い痺れが右腕から全身に伝わっていく。行き場をなくした大気の流れが、乱気流となって空間を荒らす。老朽化した天井の照明が、耐えかねて頭上から降り注ぐ。

「そんなんじゃあ、ニナは殺せないよ?」

 心底がっかりだ。上目遣いにそんな表情でニナはディルの腰に手をまわす。しっかりと抱きつくような形。伝わり来る少女の体温は驚くほど冷たい。そして。

 視界を埋め尽くすほどの閃光。

 今までとは比べものにならないほどの熱と光、鼓膜を裂くような轟音。そして、全身を引き裂く身悶えするような痛み。

 一切の躊躇いもなく、ニナは自身を巻き込んで大爆発を起こしたのだ。
 熱風に踊らされ、身体が宙を舞う。意識すら奪いそうな激痛は、肢体を焼く熱か、それとも地に叩きつけられた衝撃か。それすらも理解できなかった。

「う……ぐ、ぁ……っ」

 痛い、痛い。
 あまりの痛みに、訳が解らなくなる。
 肺が焼かれて、息が出来ない。言葉にならない音が呻きとなって、喉から漏れる。

「ねえ、どうしちゃったの? どうしてそんな風に弱くなっちゃったの? こんな簡単に壊れちゃうなんて、つまらないよ。ディル」

 焼け焦げ、壊死した体組織をみるみるうちに作り直して、すっかりと綺麗な身体を取り戻した少女は不満そうに頬を膨らます。
 壊れて動かなくなった玩具を見つめるような瞳で、動くことが出来ないディルを見下ろしている。

「つまんないよ。もっと、遊ぼうよ」

 退屈そうに呟く少女。痛みに溺れるディルは反応を返すことも、その姿を見つめることすら叶わない。
 なおさらつまらなそうに、少女は息を吐く。

「もしかして、本当に壊れちゃった?」

 倒れ込むディルに触れようと、ニナは手を伸ばす。
 
 ぱあん。乾いた音が響く。
 
 その指先が触れるよりも前に、少女の身体はぐらりと傾く。その頭部は、弾丸によって貫かれていた。ほっかり空いた穴から吹き出した鮮やかな血が流線を描いた。


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