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黎明のこえ11

「前も聞いたが、お前は一体『何』なんだ?」

「前も言ったよね。ニナはニナだって」

 こちらの感情を揺さぶろうとしているのか、それとも無意識なのか。つかむことの出来ない、その返答は苛立ちを煽る。

「そういうことじゃない……!」

 余裕のないこの状況で無駄な時間を取りたくはない。欲しいのは真実、確かな答えだけ。

「コアを持つ生命体と同じなんだよ……お前は。同じ気配を放ってやがる。そして、同じように再生能力をもっている。……お前は一体何なんだよ。お前は自分を人間だと言っていたが……俺にはそうは見えない」

 刹那、ニナの表情から笑みが消える。
 かろうじて彼女を人間たらしめていたその表情が消え去り、少女は無機質な人形に変貌したかのようだ。陶器のような色味のない唇が、ぬるりと音を紡ぎ出す。手のひらからこぼれ落ちた水たまりが、いつの間にか底なしの沼となって、足下をからめ取る。

「ニナは人間だよ? でも、そうだね。ディルの言うとおり。ニナは人間だけど、人間みたいに簡単に死んだりしないの」

 抑揚のない声でそう言うと、ニナはおもむろにその右腕を振りかざした。
 ぱあん、小さな破裂音とともに、空間を照らしていた非常灯が爆ぜる。ガラスの破片が飛び散って、地面に落ちていく。
 緩慢な動作でニナは飛び散った破片を手掴みすると、その切っ先を自身に向ける。そしてためらいもなく、白い喉を切り裂いたのだ。

「!」

 勢いよく溢れ出る赤い血が、彼女の白いからだを鮮やかに染め上げていく。暗がりでも鮮明に、ほとばしる血液が空間に舞い上がるのが見えた。
 喉をばっくりと開いたまま、ニナの口元が三日月に歪む。
 その喉元がばちばちと青白い小さな閃光を走らせたと思えば、切り開かれた筋肉、皮膚が修復されていく。瞬く間に少女の綺麗な首筋が蘇り、そこには傷跡一つ残っていない。

「ね? 死なないでしょ」

 にやりとしたまま、ニナは首筋に残った赤い血を拭う。

「すごいでしょう。でもまあ、ニナはオリジナルの劣化品だから再生時間にムラがあるし、休まないとすぐに駄目になっちゃうんだけどね」

 首筋を真っ赤に染めながら、少女の唇は愉悦に浸るかのように滑らかに動いて、そして訳の分からない言葉を並べている。
 どうにも調和の取れていない目の前の光景に、思考は簡単に追いついてはくれない。しかし、死することのない少女という存在を目の当たりにして、その事実そのものに対する驚きはさほど大きなものではなかった。
 意外にも、彼女という存在を受け入れることは容易かったのだ。

「コア……お前もコアを持っているのか?」

「そうだよ。……なんでそんなに驚いてるの? ディルだって同じじゃない」

 無機質だった少女は、一転して恍惚に表情を染める。めまぐるしく変わる表情が、同時にディルの安定を乱す。

「同じ……? 前もそんなことを言っていたが、どういうことだ」

「どういうことって、そのままの意味だよ。ディルはニナと同じ。だからこんなにも惹かれあうの!」

 言っていることの意味が分からない。
 同じ? なにが同じだというのだ。少なくとも、こんな訳の分からない存在と一緒にされる覚えはない。

「でも、ディルはもっとすごいのよ。だって、ニナはディルのおかげで存在できるんだから。だからニナにとって、ディルは特別なの。ずっと逢いたかったの。ニナはディルに一緒に来て欲しくて。だから今日はここに来たんだよ。ここにいれば貴方に逢えるってネオが言ってたから。でも、どうしてそんな顔するの? そんな怖い顔しないでよ。そうだよ。一緒にいこう。ディル。そうすれば全部わかるよ。知りたいことも、忘れてしまったことも、全部思い出せるよ。ね、一緒にいこう」



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