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黎明のこえ7
 城を出るときに持ってきた携帯用のランプにあかりを灯すも、どうにも心許ない。普段ならば十分な光をもたらしてくれるのに。まるでこの部屋の闇が灯る光を片端から食らっているかのようだ。

「これじゃあだめね……」

 光を生み出さなくては。こういう事に、自分の力は適任だ。

 ディーナは包み込むようにかざした掌を前へと向け、そこに意識を集中させる。すると掌の間から小さな光の粒が生まれ、ゆっくりと結合していく。やがて集まった光の粒は大きな光の球体となり、雲の隙間から差し込むような白い光であたりを照らし始める。拳大になった光の球体は、その大きさからは想像できないようなまばゆさを放って、ふわりと中へと浮き上がる。小さな光は部屋全体を照らす光源となり、小さな太陽さながらだ。

「これで大丈夫」

 光の能力の使い方の一つである。体組織を活性化させ傷を癒すだけでなく、このように明かりとすることもできるのだ。おまけに、この球体から放たれる光には癒しの効果もあるため、光の下いることで体調もばっちりなのだ。我ながら便利な力であると、ディーナは少しだけ誇らしく思う。

 部屋の中が明るくなり、その輪郭がはっきりと判る。さび付いた扉と思い鎖で厳重に守られていたその空間は、一体どれほどおぞましいものが隠されているのかと気を揉んでいたが、部屋の大きさは小さいが一見すると先ほどの資料室と何ら変わりのない部屋であるようだ。天井までの高さがある資料棚が、同じようにずらりと並んでいる。


 『核についての研究』

 山のような資料の中でその一文がディーナの目に飛び込んできた。不思議なもので、関心を寄せている物事ほど人間の注意は行きやすくなる。これほどの資料の中からこうも簡単に関連の深そうなものを見つけ出せるとは思っていなかった。
 核とはすなわちコアのことである。この世界を構成する事象の中で、私たちにもっとも身近で、それでありながらもっとも謎の多い事象。それがコアである。この世界に存在するすべての無機物物体が必ず有している存在の核。それを壊さぬ限り、たとえ形を変えても物体はその物体で存り続ける。しかしそれを壊されてしまえば、存在はたちまち揺らぎ、その姿を保つことが出来ず消えてしまうのだという。世界の仕組みに深く関わっているにもかかわらず、多くが解明されていないその存在。ディーナも最近まで知り得なかったことだが、この記録をみる限り軍にとってははるか前から周知の事実であり、そしてその仕組みを解くためにこれまで多くの研究を重ねていたのだろう。

 コアを持つ生命体。必要なものはその情報だ。それに関連する研究資料がこの中にあれば……軍は黒、ということになる。
 物体からのコアの抽出方法、コアの構成原理、複製実験、ページをめくって見える文字列はどれもコアに関連する内容であるものの、記述はあくまで理論の展開にとどまっていた。実際に実験を行った形跡は記されておらず、核心に触れるようなものは見あたらない。

「やっぱり、今回の件に軍は関係ないのかしら……」

 そう思い、資料を棚に戻したところでディーナの手がぴたりと止まる。

「これって……」

 赤で書かれたある文字列がその目に留まった。

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