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黎明のこえ4

 ダズが扉を見上げる。
 開錠に必要なパスワードの情報はないし、それ以前に、電気系統が停止してしまっている以上、電動で扉を開くことはできない。
 
「意外と人力で開いたり……しないね」

 扉の隙間から左右へと力を加えてみるも、ディーナの力ではびくともしない。続いてダズが試みるも、結果は同じ。扉は重く、堅く閉ざされたままだ。

「こうなったら力ずくだな」

 退いていろ、とディルが扉の前に立つ。

「破壊する」

「何があるか分からないんだ、一応警戒して慎重に……」

 ダズが言い終わるよりも先にディルは風の一撃を扉へと放つ。
 収束した風が周囲の空気を一斉に揺らし、淀んでいた空気が跳ね起きたかのように渦を巻く。風圧が重たい金属を打ち抜き、身体に感じるほどの轟音。
 それは風が吹き去るごとく一瞬の出来事。
 思わず閉じられた目を開くと、重厚な扉はわずかにその面影を残してはいるものの、無惨にもひしゃげた鉄塊と化していた。風の衝撃を直に受けた中心部はべっこりと凹み、人が通るには十分な隙間が作り出されていた。扉に任されていたであろう通路を塞ぐという役割は完全に失われてしまったのである。

「これで通れる」

 風圧だけで鉄塊をねじ曲げるという荒技を繰り出した後にも関わらす、息一つ荒らげることなく平然と、ディルは前へ進もうと歩み出す。

「……ちょっと待て! ディル! 慎重にしろと言っただろ……俺の話を聞け!」

 そんな彼をあわてて追いかけ、ダズは息を巻く。

「別にいいだろう。それよりも先へ進むことが大事なんじゃないのか?」

「それはそうだが……もっと違うやり方があったんじゃないのかと、俺はだな……」

 特に気にする様子もなく、どんどん進んでいこうとするディル。説教を続けながらもダズもそれについて先に進んでしまうので、ディーナはひとり取り残されてしまう。

「二人とも、慎重にね……!」

 そう言う声は二人に届いただろうか。抉れた鉄塊をちらり横目に気にしながら、ディーナもその向こうへと足を進めた。

 ディルの力はやはり強大だ。とても頼もしく感じるが、それと同時に不安になる。
 速まる鼓動は、任務への緊張感からだけではないようだ。
 どうしてこんなに不安になるのか。

 暗闇が、あっという間に前をいく二人の姿を隠してしまう。
 見失わないように、絡みつくような暗闇に、小さな不安が育たないように、振り払い、進んだ。



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