長い夢のエピローグ10 「あの、どういうことですか……?」 「そのままの意味よ。この件で軍との関係性が悪化して本当の意味で対立――戦うことになったら。あなたはどうする? 戦うことができないあなたは守ってもらわなくては生きていけなくなる。誰かを守りながら戦うことは、ただ戦うよりも難しいもの。つまりあなたはお荷物になるってことなのよ?」 「――っ」 ミリカの言葉は、リサの恐れていた可能性だった。 淡々とその可能性を突きつけられる。今はまだ可能性にしかすぎない。されど、もしそうなってしまったら? 「薄々感づいているんじゃない? 何も出来ないあなたを仲間たちがどう思っているのか……」 「そんなことない!」 ミリカの言葉が黒い靄となって影を落としていく。それを振り払うように、リサは声を上げた。 血の気が引いていくような感覚を押さえ込んでミリカを睨む。刺すような鋭い視線。しかしそれを向けられているミリカは気にした様子もなく落ち着いた様子を崩さない。 「そんなこと、ない……!」 自分に言い聞かせるように呟くリサを眺め、ミリカは感情を感じさせない声で続けた。 「ならば、なぜあなたはあの場に立っていないのかしらね」 現実を突きつけて、ミリカは笑った。 怒りも、悲しみも起こらなかった。そう、これが現実。ただ、自身の力のなさを思い知るだけ。 「……」 返す言葉が見つからない。 それをあざ笑うかのように、ミリカは言葉を突き刺した。 「これからの戦いは、彼らの存在を揺るがすかもしれない脅威との戦い。弱者はどうすべきか……わからないわけじゃないでしょう?」 違う、と言って欲しい。 誰かに否定して欲しい。 (自分の存在は彼らにとって必要のないもの?) そんな疑念を、払拭して欲しい。 身体の力が抜けていく、目の前が真っ白になっていく。ミリカの声が遠くに響く。聞こえない、聞こえない、聞きたくない。 「ち……が、う! 違います。あたしは……役立たずのお荷物なんかじゃない。あたしにだって、出来ることはある! 皆の役に立てる……!」 喉を震わせた声はかすんでいて、なんとも情けない音だった。 そう、自分にだって出来ることはあるんだ。 信じたかった。 「まあいいわ」 一転、ミリカの声は退屈そうだった。 「あなたをどうするのか決めるのは私でもあなたでもない。レオだものね。それでわかるわ。あなたが彼らにとってどのくらい意味を持つものなのか」 そう言い残して、ミリカはどこかへと歩き去っていった。 「なん……なのよ」 簡単に掻き乱され、無様に混乱する思考回路を抱えて、リサは遠ざかっていく背中に吐き捨てた。 ――大丈夫。あんな言葉に負けたりなんかしない。 不安が渦巻く心中を「大丈夫」で塗り固めて、無理矢理にでも強く在ろうとする。 大丈夫だ。あんな奴に、私たち何がわかるというのだ。 レオは私を見捨てたりなんかしない。私だって、ただの足手まといになんかけしてならない。 強く。無理矢理にでもそう思っていないと、立っていられなくなりそうだったから。自分を支えている足下が、音を立てて崩れていきそうだったから。 いつもより速度が速まっていた心臓がそのテンポを落ち着かせるのを待って、リサは目の前の扉に手をかけた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |