長い夢のエピローグ11
すべての話が終わったところで、軋んだ金属音が部屋に響いた。
扉を開けて誰かが入ってきた音だった。
この場にいない誰か、そう考えればそれが誰なのかはすぐに判断できる。そして、レオの視界に加わった鮮やかな赤色が、その推測の正解を示した。
「あれ? お取り込み中だった?」
いつもと違わない陽気な声は、部屋残る緊張感を払っていくようだった。
「リサ! 入ってくるならノックくらいしなさいよね」
「あはは、ごめんごめん。つい癖で」
呆れたようなディーナの声に、おどけた様子で答えるリサ。
癖だとしても、人の部屋に入るときは礼儀としてノックをして欲しい。レオはそう思った。今まで何回か注意をしているのだが(その直後は直るのだが)一向に直る気配がない。一応プライベートな空間なだけあって、それが少しだけ彼の悩みでもある。
思考回路が横道にそれてしまった。レオは雑念を払うと、目の前に表れたリサへと意識を戻す。
「それで、どうしたの? リサ。俺に何か用?」
「あ、うん。ちょっとね」
そう言って向けられる笑顔に、わずかな違和感があるのをレオは感じた。それは他の誰もが気付かない、些細なものだった。だが、普段の純真無垢なそれと比べて、どこかぎこちなさのようなものを感じ取ったのだ。
「わかったよ」
そううなずいて、彼女と二人にしてもらえるよう皆に促す。
先程解散を宣言していたこともあって、集まっていた5人が部屋を出るまでにはそう時間はかからなかった。
「……用ってなんだい?」
レオは改めてリサに視線を送る。二人きりになって皆への気遣いがなくなったからか、その表情からは力が抜けたような気がする。だが同時に、彼女の中に潜んでいた違和感がよりはっきりと姿を現す。こちらへ向けられる視線から、不安の色が見て取れた。
「聞きたいことがあるの。……何であたしには何も教えてくれないの?」
ほんの少しためらって、それから一気に言い放った彼女の言葉。その言葉を彼女が告げること、それはレオの予想していたことだった。
任務のことをリサ一人だけが話して貰えないことに、リサが不満を感じないわけがない。彼女のその思いが自分とへと向けられるであろうことは想像に難くない。
しかし、なんだろうか。なにかがおかしい。彼女の様子はレオが予想していたものよりは幾分悲しげで、それが嫌に引っかかる。
「……あたしだって皆の役に立ちたいよ。あたしにも出来ることだってあるもん。皆の力になれるもん。なのになんで?」
彼女の口から漏れた言葉は、悲痛な想いだった。
「――ごめんな、リサ」
想定していなかった彼女の様子に、吐き出すような言葉に、心が揺らぐ。それを悟られないよう。なるべくいつもの調子で、レオは眉を下げて笑った。
けして人に弱さを見せない、彼女がこんな風に不安を露わにするのはいつ以来だろうか。最後の記憶はもうずいぶんと昔のことだったように思う。
「今回の件はお前には関わって欲しくないんだ。危険が及ぶかもしれないだから……」
「そんなの嫌だよ。なんであたしだけ特別なの? 皆が危険なら、あたしだって同じでいたい。同じように危険でいたい!」
なだめるレオの言葉は、彼女によってかき消される。その声はますます真剣味を増していく。彼女の気持ちを汲んでやりたいとは思う。しかし、それはできないのだ。応えるように、レオの顔つきも真剣なものへと変わる。
「駄目なんだ」
「なんで……?」
はっきりと告げる。彼女の真っ赤な双眼がレオをしっかりと捉えた。交錯する視線の中で、それはかすかに震えているように見えた。
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