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文章
冬、隣にはきみ(十セナ)





季節は冬。

目の前には十文字くん。
そして今日は、期末試験2日目。


…正直な所、途中経過はあまりよろしくない。

いつもなら乾いた笑みをモン太と交わして試験は終わるんだけど、明日だけは特別だ。

明日は、「十文字くん」に教えてもらっている数学がある。

僕がこれでいつもの悲惨な点数を採ってしまうと、非常によろしくない。

十文字くんの名誉のためにも僕は頑張ってそこそこの結果を残さなきゃいけないのだ。

そんな十文字くん、いや十文字先生は、授業を真面目に受けている印象は正直ない。怖いから本人には絶対言わないけど!

そんな勉学に熱心さを見せない十文字くん、頭はすごくいい。

ダメもとで一番危ない数学を教えて欲しいと頼んでみたら、なんと快諾してくれた。


「い、いいの!?」
「…頼んだのはそっちだろ」
「いやだって試験前だし十文字くんも自分の勉強が…」
「元々試験前に必死でやるタイプじゃねぇし、いつも三人で街中ぶらついてただけだしな」


だから教えてやるよ、と十文字くんは僕の腕の中から数学の教科書を奪った。


そんなわけで試験一週間前から毎日放課後教えてもらっている。

最近ようやく基礎ができるようになった。

そして、十文字くんは試験期間までこうして放課後残って教えてくれているのだ。

本当にありがたくて、感謝してもしきれない。

…おかげで赤点は免れることが出来そうだから。


「これをaに置き換えて、さっき作った式に代入すんだよ」
「えっと…こうかな」
「そ。んで、xが消えてaが分かる」
「おおっ、ホントだ」
「だろ?」
「うん!」


正確までたどり着いたことが嬉しくて思わず顔を上げれば意外と近くに十文字くんの顔があって息がつまった。

正直、男の僕からしても十文字くんの顔は整っていてドキリとする。

それを気づかれないように、慌てて頭を下げれば、その頭を十文字くんが丸めた参考書で叩いた。


「いだっ」
「よそ見してんじゃねぇ」
「えっ」


もしかしてさっきからチラチラ十文字くんを見てたのも気づかれてた…!?

ヒィィ、と教科書で顔を隠せば、十文字くんが鼻で笑った音がした。


「…今の問題が解けたら六割はいける」
「え、本当に?!やった!」
「おいコラまだ安心すんじゃねぇ。今回の範囲は普通の計算がやたらややこしいんだ、凡ミスしてたら赤点だぞ」
「う、うん」


教科書から顔を出してコクリと神妙な顔で頷けば、面白そうに十文字くんも笑って頷いた。







外に出れば、雪が降っていた。

勉強に集中していたからか教室ではそんなに寒く感じなかったのに。

…いや、本当は十文字くんに気を取られていたからかも知れない。

とりあえず、外は手がかじかむほど寒かった。


「さむ、さむい!」
「マジで寒いな」


十文字くんが喋るたび口元から白い息が漏れる。

「雪も降ってるもんね…」
「うげ、俺傘持ってねぇ」

十文字くんはそう言って空を見上げる。その横顔を盗み見ていると、十文字くんが突然こちらに視線をやった。


「え、ゆ、…雪って綺麗だね」
「話が噛み合ってねぇぞ俺たち」
「えっ、あ、あーと、ごめん」


目が合ってしまった気まずさを紛らわそうと適当に話をふれば案の定つっこまれてしまった。

慌てて何か言おうとするが良い言葉が浮かばない。

そんな僕を見る十文字くんの視線は何故か頭部に。


「…雪、積もってる」


そう言って僕の頭を軽くはたいた十文字くんにもうっすらと雪が積もっていた。


「じゅ、十文字くんもマフラーに積もってるよ」


払い落としてあげようと手を伸ばせば、声を荒げた十文字くん。


「っうわ、つっめてぇ!お前マフラーん中に雪入れるなよ!」
「うわごめん雪退けようとしたんだけど!入ってた!」


慌てて手を引っ込める。


「くそっ、余計寒くなっちまった」
「ご、ごめん…」


十文字くんは「ったく…」と眉間にしわを寄せながらマフラーを整える。

その隣に当たり前のように立ちながら、当たり前にそれを眺める自分がいた。

それに気づいた瞬間、にや、と顔がゆるんだ。


なんだこれ、すごい嬉しい。

こうして十文字くんと話せるのがどうしようもなく嬉しい。


この空間が好き。





「…十文字くん、傘あるよ」
「…マジか」


こうして、傘を差し出すことだってできる。


「折りたたみだから小さいけど…使う?」
「いいのか?」


「まもり姉ちゃんに折りたたみを常備する大切さはよーく教わったからね」と笑って傘を差し出せば、十文字くんも笑って受け取った。


「んじゃあ、借りるぞ」

そう言って十文字くんは身体のサイズに不釣り合いな小さな傘をさした。





「寒いな」




白い景色の中、十文字くんがそう呟いた。

確かに寒い。

けど、正直そんなに寒さは気にならなかった。

どちらかというと隣を歩く十文字くんの方が気になった。


歩くスピードが僕より少しだけ早い、とかそんなくだらないことを考えて歩く。


今はこの曖昧な思いを伝えるんじゃなくて、この温もりを感じていたいと思う。



「…寒いね」



けど、あったかいな。



声には出さずに呟いた。



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あきゅろす。
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