文章 伝えて、それからも(十黒) 俺は馬鹿だから、人の些細な気持ちの変化になんて気がつけないけど、テメーのことぐらい自分で分かる。 そうして自分の中にあるそれが分かってしまった俺は、奴にこれを伝えることにした。 だって昔、何か言いたいことがあればちゃんと言えよ、とあいつは呟いたから。 「俺と付き合え」 俺は今、十文字にそう告げた。 言い方は我ながら荒々しかった思うが、他に口に出せる言葉が見つからなかったから仕方ない。 「お前が好きだ」なんてこっぱずかしくて今更言えるわけがない。 俺の真面目な顔に流石の奴も真剣なのだと悟り、「どこへ?」なんてボケはかまさなかった。 その代わり俺に釣られたように十文字も真面目な表情になって、黙ってしまった。 ヤンキー2人が無表情で見つめ合っているのだから、誰かがこの光景を見たら逃げ出してしまうだろう。 まぁ、今は俺たち二人だけだ。 痛いほどの静寂に終止符を打ったのは、十文字の方だった。 「悪い、付き合えない」 少しばかり時間をかけてその言葉を飲み込む。それはまずくて吐き出したくなる所を必死で飲み込んだ。 なるほどそうか、返す言葉もねぇよ。 俺は見事に十文字にふられてしまった。 成功率は五分五分と踏んで挑んだ勝負だったから、予想外のことではない。 だから「何で?どうしてだ?他に好きな奴でもいんのかよ?」なんて騒ぎ立てることはしなくてすんだ。 問題は、予想していたよりもノーの返事がガツンと来たことだ。 う、と口から音が漏れた。 いや、俺は泣かねぇぞ。 意地でも泣くもんか。 振られて泣くなんて女がする事だ、俺が泣くと十文字が困る。 俺も困る。 一度流れ出したらそれを止める方法を知らないもんだから。 だから、握りしめた拳に力を強めた。 「そうか、じゃあもういい、帰れ」 俺は出口を指差し、早口に言い切った。 早く、早く、勿体ぶらずに余韻を残さず出ていけ。その気がないなら、早く。 「…ごめんな、黒木」 十文字はいつもより丁寧に話した。そしてゆっくりと出口へ向かう。 「ありがとな」 俺の頭をかするように置かれた十文字の手。 一瞬の温もり。 「なぁ、」 お前も分かってんだろ、十文字。 そんな優しさは俺を本当に慰めてくれないってことぐらい。お前俺たち三人の中で一番頭良いじゃんかよ。 なのになんでそんな酷いことしやがる。 俺はついに泣いてしまった。 「俺は、こんなことのために、告白したんじゃ、ない!」 どさりと座り込んだ俺に十文字が振り向き、歩み寄る。 「好きって言われて悪い気はしねぇよ。嬉しかった」 「けど振っただろ!」 俺の前にしゃがみこんだ十文字は悪い、と俺の目を見つめて言った。 またぶわりと涙が溢れ出す。 「んだよ…」 お前が泣かせてるくせに少し困ったように笑うのか。 けどそれさえもああ好きだ、と思ってしまう自分が憎い。 「これからもよろしくな」 「馬鹿!アホ!」 何も答えたくなくて思いつく限りの罵声を上げた。 十文字の苦笑いと俺の嗚咽が部屋に響いた。 そして結局俺たちは並んで部屋を出るのである。 (…腹減った、飯食いに行こうぜ) (俺ラーメンがいい!!) (あー…トガと相談してからな) * 三人のうちひとりが柄に合わない、「俺たちらしくない」ことをしても笑って馬鹿にしたり置いてけぼりにしたりしないハァハァ三兄弟が好き。 [*前へ][次へ#] |