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ショートショート
抹消記憶(デイダラ#)







オイラの恋人は、少し前に死んだ。


任務でしくじって、オイラが駆け付けた頃にはもうこと切れていた。


おかしくなりかけたオイラを、旦那が殴って気絶させてアジトまで連れてきた。


オイラは目覚めたとき、もしかしたらこれは夢だったんじゃないかと思った。


けれどオイラの目に一番に飛び込んできたのは、隣で静かに、永久の眠りについた、恋人の綺麗な寝顔だった。







「愛羅」


もういない彼女の名を呼ぶ。


「・・・愛羅」


『デイダラ。』


そう言って笑ってくれた彼女は、もういない。


なあ愛羅。


お前は今どこにいるんだよ。


なんでいなくなったんだよ。


どうしてオイラを置いていくんだよ。


ずっと一緒にいるって約束はどうなったんだよ。


(嘘つき、)



浮かぶのはそんな負の感情ばかり。


前は彼女のことを思うだけで温かい気持ちになれたのに、今は思い出すたびに心が凍りそうになる。


オイラの瞳と同じ色の空を見上げれば、泣きたくなるほどに青く澄みわたっていた。


その時。



ふわり、



一瞬、愛羅が笑ったような気がした。


いない人間が笑う、なんて可笑しな話だけど。


本当にそんな気がしたんだ。


そしてオイラは、そのまま気が遠くなるのを感じた。









ふわり、ふわり


体が浮く感覚がする。


私は少し前に死んだ。


任務でしくじって、誰もいないところで一人で死んでしまった。


ちなみに今の私の体は私にしか見えず、しかも半透明だ。


幽霊なんてものは信じてなかったんだけど、いざ自分がこうなると、信じざるをえないな。



木の上から下を見ると、私の好きな、向日葵色の髪を持った青年が、一人で空を見上げている。


「愛羅」


名前を呼ばれて、私はふわりと彼の前に降りた。


「・・・愛羅」


けど彼は私に気付かない。気付けるはずもない。


私は死んでいるのだから。


抱き締めたくて手を伸ばしても、私の手はむなしく彼を通りすぎるだけだった。


もうこんなことを何度繰り返しただろう。


デイダラ、デイダラ。


約束破ってごめんね。


一人にしちゃってごめんね。


ねぇ、そんな顔しないで。


私はここにいるよ。


いつもあなたのそばにいるんだよ。


でもね、私が見たいのは、苦しんでいるあなたじゃないの。


私の存在が、あなたを苦しめるのなら、


私という記憶が、あなたを哀しませるのなら、


消えてあげるよ、大好きな大好きなあなたのために。


ふわっ


私は彼にキスをした。


と言っても、唇には何の感触もなかったけれど。



「ばいばい、好き、大好き。」



そう言って、私は笑いながら、愛する彼の頭に手をかざした。


抹消記憶


(消してあげるよ、全部。)

(私という存在を、私という女を愛したことを)

(ねぇ、だからもう泣かないで)



忘れてください、私のこと、忘れてください、私と過ごした日々、忘れてください、私への気持ち、

そして思い出して、笑い方を



けれど願わくば、もう一度会ったとき、あなたがこっちの世界に来たときは、


(そのときはどうか思い出して)




090123



あきゅろす。
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