過去の産物 心の声。 ニューヨークに上陸したつくしは、母国と異国との違いに困惑していた。 恋人(と呼べるかは既に謎だが)の道明寺に会いに来たのだが… 西門、美作に言うこともなく。勿論、花沢類にも。 (何か、言いにくかったんだよね…) だから1人でニューヨークへ来たのだが。英語の喋れないつくしにとって、最悪の事態としか言いようがないほどで。 バッグを掏られ、気付けば路地裏。しかも、助けてくれる人は誰もいない。 誰も、つくしを助けてくれる人はいないのだ。 (誰かッ…!!花ざ…!?何で…) 一瞬、脳裏に浮かんだのは恋人とは違う人物の顔。 つくしは困惑を隠すことも出来ず、でもその名を呼ぶことも出来ず。 「道明寺ー!!」 叫んだ名前。それはつくしの求める相手の名ではなく。 せっかく恋人の名を叫び、呼んだのに。 『彼女を離してくれないかな』 「花沢類…」 また助けてくれたのだ。助けてもらった喜びの他に、何か違う喜びがつくしの中に芽生えていた。 それを口にすることは出来ず。 「怖かった〜…」 「言ったら付いてきてやったのに」 「だって…」 (付いてこられたら…駄目だったんだって…) 言えたら、どんなに楽だっただろうか。 目に涙溜めて、気の抜けたつくしの姿に花沢類はただ微笑んだ。 どこか放ってはおけない、つくしはそんな存在で。 いつの間にか、気付いたらニューヨークに来てしまっていた。 (司の方がよかったんだろうけど…名前、呼んでたし) そう思えば、僅かに切なくなったのも事実。勿論、それを顔に出す花沢類ではないが。 手を伸ばして、つくしの髪にそっと触れた。ぽんぽん、と頭を撫でて、安心させてやる。 それしか自分には出来ないのだ。 「立てる?」 「…なんとか」 「はい」 いつもと変わらない態度で、手を差し出した。 そうすれば、つくしも戸惑うことなく手を取ってくれる。 分かっているから、そうすることは簡単で。 「ありがと」 「いいえ」 「………」 「ん?どうした?」 「いやっ…」 立ち上がっても、手を離さないでいると… つくしは、こういって照れたように俯いて黙り込む。 (顔が近いんだっつーの!!) そんな姿を見れるのは今は自分だけ。そんな些細な優越感。 顔を覗き込めば、もっと恥ずかしそうにして挙動不審になるのだ。 「ん?なに?」 「…手…」 「ああ、駄目?」 こんな風に尋ねたら、つくしは何も言わない。 ずるい、そんなことは分かっているのだが。 (駄目って…駄目じゃないけど…じゃなくて!駄目だけど) 困惑して、葛藤して。そんな姿を、花沢類はずっと見てきたのだ。 (今ぐらい…独り占めしても、いいよね?牧野) ********** 独り占めしちゃえ!!というわけで(笑) [Back][Next] [戻る] |