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03




まるで花弁のように落ちてくる君を見て、


一瞬、
時空が止まった気がした。






つる日々草
Act.3:洲浜草-スハマソウ-






「そろそろ、行ってみましょうか…」






先ほど空から降ってきた女の子
不運にも九郎と頭がぶつかり気絶してしまった女の子…。


僕はその子の様子を確認するために客間に向かっていた。






「あの子はいったい…」






空から降ってくるなど普通では有り得ない…


しかし、あの子の容姿を見る限り鬼や天狗ではない。
かといって怨霊などの邪気を感じない…。






「……平家のもの、でしょうか?」






そう思いながら部屋のふすまを開けると、深呼吸をしている彼女の姿がふと目に映った…。






『すぅーはぁー、すぅーはぁーすぅ』

「あ、目が覚めましたか?」

『ぼギャオアァーーーー!?』






ぼギャオアァーーーーって…‥


こんな叫び声女性で初めて聞きましたよ






「大丈夫ですか?

『あ、はい…大丈夫で、す!』






軽く馬鹿にすると最初は気づいてはいなかった彼女も流石に気がついたのか不満気な顔をし、僕を見つめていた…。


理由は…
頭のことですね(心読んだ)






「言いましたね(ニコッ)」

『這( ̄□ ̄;)』






フフ、分かりやすい人ですね…
作戦でしょうか?


まぁ、それならその作戦に乗ろうとしましょうか。






「先ほど思いっきり頭を打ったようだったので」

『あぁ…!』






随時…簡単に信用しますね






『あの…すみません
助けてもらったのに疑ってしまって……』

「別に良いんですよもう一つの意味でもありますから






そう言うと再び表情がかわり彼女の顔は引きつったような…
苦笑したような表情になった…‥






「そういえば、あなたは誰ですか?」






これが1番聞きたかった本題。
今までの会話で、彼女は怨霊ではないことはだいたい確定出来たが…


彼女が平家のものではないという確証はまだない。






『えっと…私は櫻井雛です
あなたは?』






櫻井…‥
聞いたことがない家柄ですね…






「僕ですか?
僕の名前は武蔵坊弁慶です
気軽に呼んで下さいね」


『あ、じゃあ弁慶さんで…
私雛もって呼んで下さいね!!』

「はい(ニコッ)」






ここまでは一応何事もなく通っている。


しかし、まだ少し気になるのは彼女の口調…‥
ここでは少し珍しい話し方…






『あの…弁慶さん?』

「何ですか、雛さん?」

『すみません、此処は何処ですか?』

「此処は京ですよ」






自分の現在地が分からない…?
流石に平家でも京の場所は分かるはず…。
なのにこの女(ヒト)は今自分が行る場所すら分からない…






『すみません、京都とか東京ではなくて?』

「……いえ、その京都や東京ではないですね」






そして、僕の知らない名前を言い出す…


もしかしたら…






『何処?』






もう一つ浮かぶ可能性…

およそ百年前にあった出来事と同じ…‥




そして彼女はいきなり辺りを見渡し、うーんと唸りながら何かを考え始めた。


しばらくその様子を見守っていると、僕は彼女の袖から何かが落ちたのを目にした…。






「雛さん、何か落ちましたよ?」

『え?あ、コレは…‥』






黒く異様な形をしたもの。

少し年忌が入っているがとても丁寧に扱われているのが良く分かる…。






「雛さん…
それは何ですか?」

『あぁ、これはカメラです!
……知りませんか?』

「いえ、初めて見ました」

『…………』






カメラ…

初めて聞いた言葉と姿。


しかしこれを見た瞬間、僕の確信は確然と上がった。






「そのカメラはどうやって使うんですか?」

『あぁ、コレは…


弁慶さんちょっと良いですか?』

「…?はい」






彼女はそう言ってその…カメラ、を覗き込むようにして僕を見始めた。






――パシャ!―






「!?」

『あ、良かった…
まだ使えるみたい』






カメラはいきなり音を立て、光を放った…‥


やはり…不思議だ。






『良かった、壊れてなくて…』

「あの…?」

『あ、ちょっと待って下さいね!!』






『良かった、壊れてなくて…』




そう言った時の彼女の顔はとても優しく綻んでいた。


よほど、大切な思い出があるのでしょうか…?




そして彼女はカメラから出てきた黒い紙をパタパタと乾かし始めた。






『よし…!
はい、どうぞ弁慶さん!!』

「これは…
僕、ですか…?」

『うん!
これは私の宝物でこの機械を使って撮れば撮った物が紙に写って出てくるんだ!!』

「凄い…ですね」






やはり…
この世界では絶対目にできないもの。


たとえ平家が怨霊などつくり出しているとしても…
こんなもの、作り出せるわけがない…






『でしょ!!』

「…………」






不意に魅せた彼女の笑顔…
とても純粋で喜びに溢れていた


そしてこの笑顔を見て確信した。
この子はおよそ百年前にあった出来事と同じ…


異世界から来た人間なのだと。






『どうしたんですか…?』

「実は、僕はあなたを疑っていました」






先ほどの笑顔で敵ではないことは確信できた。


しかし、一応このことは聞かないといけない。






『え?』

「いきなり空から落ちてきてそのような不思議な物をもっている…
僕たちには有り得ないこと」

『…………』

「しかも、あなたは京を知らない、そしてその話し方…


あなたは何処から来たのですか?」

『……ッ…!?』






何処から来たのですか?


そう言った瞬間彼女の顔から笑顔は消え、

とても、

苦しそうな、悲しみにあふれた表情になった…。


そして彼女は息を呑み込んだ






『私は、日本の鎌倉というから来ました
学校で友達と話していたら急に吸い込まれて濁流に流され…


気がつけば落ちていました』

「…………」

『信じては…もらえないと思いますが…』






どうやら僕の予想は的中したようですね。


彼女、雛さんは異世界の人間…
最初は雛さんが神子かと思ったけれど…




自分の中の血が騒ぎ、


 神 子 で は な い 


そう自分に語りかけていた。
このことを急いで雛さんに説明しようとしたとき、彼女の頬から…






――ポタ…―






一筋の涙が流れ落ちた。







「雛さん…‥」

『…………』

「泣かないで下さい」






よく考えれば彼女はいきなり異世界に来たただの女の子…。


僕よりとても若いのに疑いをかけて雛さんを苦しめてしまった…‥

僕は雛さんに謝罪の意味も込めて、頬に流れている綺麗な涙を指で拭き取った。






「確かに不思議なことです…
信じがたい」

『…………』






けれど…






「でも、僕いいましたよね
“疑っていました”って」

『え?』

「最初は疑っていましたが、雛さんの笑顔を見れば悪者ではないとすぐ分かりましたよ」

『本当…?』






弱々しい彼女の声…






「はい
それに心を読めばすぐ分かりますし

『這( ̄□ ̄;)』

「フフフ、冗談ですよ」

『(冗談に聞こえない…)』






けれど…


まずは僕が彼女を信じてあげないといけない。






『私のこと、信じてもらるんですか?』

「勿論です」






だから、もう無理しないでください。

そう言おうとした瞬間…


彼女から






『弁慶さん…』

「何ですか?」

『ありがとうございます(ニコッ)』






再び綺麗な笑顔を魅せられてしまい、話しかけようとした口を紡いでしまった…。






『弁慶さん…?』

「……全く君は」

『え?』






すぐ人を信用して笑顔を見せてしまう…






「いけない人ですね」

『はい?!』

「クス、何でもないですよ」

『はぁ…』






とりあえず…
この笑顔を守れるように頑張りましょうか。






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