14
『…………』
将臣君達との急な別れから時は流れ…
新しい季節の、春がやって来た――
つる日々草
Act.14:紫陽花-アジサイ-
『…………』
あの火事からもう半年以上たったのに…
私はまだ、あの事実を引きずっている。
今は前より大分良くなったけど、半年前の私は食事も喉に通らず、ぼんやりと毎日を過ごしていた。
『………行ってきまーす』
誰もいない邸に一言投げかけ、戸締まりをして私は散歩をしに出掛けた。
みんなが居ないのは宇治川の戦いに行っているから…
私に気をつかって誰かが残るとか、遣いの人を置いていくとか言ってくれたけど、只でさえ心配を掛けているのにこれ以上迷惑を掛けたくなかったので全て断った。
だけど、本当の理由は私が一人になりたかっただけかもしれない…――
『――……桜だ』
何も残っていない六波羅の邸に私はついつい足を運んでしまった。
幸いにもその場所だけが焼けなかったのか、邸跡には綺麗な桜の木が満開の花を咲かせていた。
『桜…』
着物中に忍び込ませていた舞扇を取り出す。
重衡さんから貰ったこの舞扇…
その中にも描かれている満開の桜の木…
『……何してるんだろう私』
こんな所に来ても将臣君達は帰って来るわけ無いのに…
『……よし!!』
両手で力いっぱい頬を叩き、気合いを入れる。
『今日は久しぶりに弁慶さん達が帰って来るんだし…美味しいご飯を作らなきゃね!!』
くるりと後ろを振り返り、邸へと足を運ぶ。
涙はもう、流さない…――
***
『……よし!完成!!』
うん、うん!本当に良く頑張った私!!
と言うか、この時代でも意外に私の世界の料理作れるものなんだね!
用はアイデア次第!!
だけど、料理上手な譲君ならもっと凄い料理作るんだろうなぁ…
頭も良いからアイデアも沢山出せそうだし。
と言うか、譲君と望美ちゃん元気かな…?
2人とも無事だと良いんだけど…
“ふう”と一つ溜め息を吐くと、ちょうど戸が開く音がした。
『(帰って来たのかな?!)』
廊下を走り、私は帰って来たであろうみんなを迎えに玄関に向かった。
あとはそこの曲がり角を曲がって…――
『お帰りなさ…』
言葉を途中で止めてしまった。
玄関に居たのは弁慶さんと朔と…
「雛ーーーー!!!!」
『わぁ!え、の望美ちゃん?!』
私に抱きついてきた望美ちゃんと…
「櫻井先輩?!一体何故此処に!!」
「…?」
譲君と銀色の長髪の子供…
何がどうなってるんですか?
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