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13




「――雛、凄く上手くなったわね」

『え!本当に!?』

「ええ、もう私が教えることは無いと思うわ…
頑張ったわね、雛」

『えへへ…!』






朔にそう言ってもらえるなんて…嬉しいな!!






つる日々草
Act.13:シクラメン-シクラメン-






『――…とまぁ、こんな感じです!』






私の舞の師匠様でもある朔に舞の合格をもらった私は、早速その出来をみんなに見てもらった。
足の先から指の先まで全神経を集中して…
今まで朔に教えてもらった成果を出せるように…






「いやぁ〜驚いたよ!流石雛ちゃん!!」

「本当だな…
まさかコイツがこんなに成長するとは思っても見なかった…」

『おーい、失礼ですよ九郎さん』

「でも九郎の気持ちも分かりますよ
最初の頃の雛さんの舞はお世辞にも上手とは言えませんでしたしね」

「何も無いところでよく躓いていたしな」

「そして九郎の自慢の盆栽もよく割りましたよね」

「景時が洗濯した洗濯物もよく駄目にしたよな」

『何というか……ごめんなさい』






盆栽を割った時の九郎さんは本当に恐かったなぁ…
景時さんは笑って「雛ちゃんの足跡なら大歓迎だよー」にはちょっと引いたけど、実際はかなり迷惑掛けてたし…


本当に、上手くなれて良かった…
それもこれも…






『ありがとう朔!全部朔のお陰だよ!!本当にありがとう!』

「ふふふ、大袈裟ね雛は
それに私だけじゃないわ
雛が頑張ったからこんなに上手くなったのよ!」

『えへへ…ありがとう、嬉しいなぁ
実はね!ちょっと別な人にも教えてもらってたんだ!!
早く朔に誉めてもらいたくて!!』

「雛…」

『ん?』






すると朔はそのまま私の腕をとり、自分に引き寄せ思いっ切り私を抱き締めた。
どの位思いっ切りかというと窒息死しそうなぐらい。
だってお花畑と川見えたもん(危ない)






「本当に可愛いわ!!」

「あ!?ズルいよ朔!!
俺だってそんなに大胆に抱き締めたことないのに!」

「兄上なんかが雛を抱き締めたりしたら可愛いくて素直な雛が汚れてしまいますもの
絶対そんなことはさせません!」

「えぇ〜!!?」

「ふふふ、似たもの兄妹ですね」






本当ですね。
初対面の時の朔って凄くクールで格好いいイメージだったんだけど…
今は凄く望美ちゃんと被るくらいスキンシップが多くなった気がする…






『っー…さ、く…ちょっと、苦し…』

「ああ!ごめんなさい
大丈夫、雛?」

『う、ん!大丈夫!!』

「そう…良かった」

『うん!あ、そうだ!!
すみません、これから私ちょっと出掛けてきて良いですか?』

「別に構わないが…
いつも思っていたんだが、お前は一体いつも何処に行ってるんだ?」

『もう一人の師匠の所です!
昨日プリンを作ったので、教えてくれたお礼も兼ねて届けに行こうと思って!!』

「ああ!!アレね!
スッゴく美味しかったよ!!」

「そうですか、では遅くならないうちに帰ってきて下さいね
それでなくとも最近襲われそうになったんですから」

『はい、分かりました!!
夕暮れ時には必ず帰ります!』






だって“襲われそうになった”っと言ったときのみんなかなり恐かったもん。
景時さんは目の色変えて銃を持って私を襲った人を殺しに行こうとしてたし、九郎さんと朔には一週間外出禁止令出されたし、弁慶さんは…


うう…思い出しただけでも寒気が…
兎に角また何かあったら完璧に外に出られなくなるから絶対に帰って来なきゃ!






『行ってきまーす!』






そして私は梶原邸を後にして、師匠の住むあそこへと向かって走っていった。






***






「はぁ…はぁ…つ、着いた!」






目的地に着いた私は、着くなり師匠の姿を探した。

すると庭の渡り廊下で青年と話をしている二人を見つけ、その二人を見た私は先程の疲れなど忘れ再び二人目掛けて走った。






しーげーひーらーさーんー!!……と将臣君(ボソッ)』

「雛さん、いらっしゃい」

「ちょっと待て雛、俺はオマケか?あ?」

『いたたっ…!コメカミは痛いよ将臣君!
それに冗談だってっば!!』

「自業自得だっつの」

『っー…!本当に手加減してくれないんだから…!!』






本当に痛かった…
し○ちゃんの痛がる気持ちが分かったよ




将臣君にコメカミを両方の拳でグリグリされた私は数十秒苦しみ、いそいそと持ってきたプリンを二人に披露した。






『ジャッジャーン!
プリン作ってみました!!』

「おお!すげぇじゃんお前!!
良くこの世界で作れたな?」

『うん!大体の材料はあったし!
一番大変だったのは冷やす時かな…?
この世界冷蔵庫とか無いし…』

「食って良いか?」

『どうぞ!そのために持って来たんだし!!』

「ラッキー!んじゃ、もらうぜ!」

「……あの?」

『はい?どうしたんですか重衡さん?
あ、重衡さんも沢山食べて下さいね!
元はと言えば重衡さんの為に持って来たんですし!!』






何を隠そう(?)朔ともう一人の師匠は重衡さんなのです!
細かい所もとても丁寧に教えて、あきらめ掛けた私にも励ましてくれた…
時々真っ黒になったときは泣くほど恐かったけど…(と言うか泣いてました)






「その…ぷ、りんとは何ですか…?」

「あ、そう言えばお前知らねぇよな…
まぁ、茶碗蒸しの甘いくて冷たいやつって感じだ
食ってみろよ美味いから!」

「そうですか、では頂きます」






ニコリと微笑んだ重衡さんはそのままプリンを口に運んだ。


私と将臣はゴクリと息を飲み込み、重衡さんが食べたプリンの感想をただただ待った。
その間、誰も喋らないので沈黙が流れる…






「美味しいです」

『本当ですか?!』

「はい、こんなに美味しい物初めて食べました」

『よ、良かった…』






笑顔で美味しいと言ってくれる重衡さんを見て、その言葉に偽りが無いことが良く分かった。


重衡さんの性格上、美味しくなくても美味しいと言いそうだけど、その心配もなさそうかな?






『舞を教えて下さったせめてものお礼です!
本当はもっと何か出来れば良いのですが…』

「いいえ、十分ですよ
私も雛さんに教えられて良かったです」

『でも…』






やっぱりちょっと悪いよね…
私達の世界じゃ、舞を習うのにお金もかかるし、こんなに丁寧に教えてくれないもん






「そうですね…
でしたら、私に雛さんの舞を見せてくれませんか?」

『え!?わ、私のですか?』

「おっ!良いなそれ!!
俺も雛の舞見て見てぇし!」

『そ、そう?それじゃあ私のでよければ…』






すうっと息を一つし、私は舞を始めた。
今思えば、自分の世界に居たときには私が舞なんてするなんて想像もつかなかったなぁ…
そもそも運動もあまり得意じゃないし。
本当、朔や重衡さんに大感謝だよ。


そしてあの人にも…――






『――…終わり、です』






舞を終えた私は体勢をピシッと整え、二人の方を向いた。


自分的には良い出来だった気がするんだけど…どうかな?






「……お前すげぇな!
まさか此処まで成長しているなんて思ってみなかったぜ!!」

「本当に、とても上手になりましたね雛さん」

『あ、ありがとうございます!!』






良かった、喜んでもらえて…


そして私は三人に笑顔を向けながら笑った。


…………ん?
三、人…?






「ふん…なかなかの舞、だったな…」

「うわぁ!知盛!!
お前いつから居たんだよ!?」

「いつからと言われたら、舞が始まった頃からだ
クッ…気づかないとは、兄上もだいぶ油断していたみたいだな…?」

「うるせぇよ!」

『と、知盛さん…』

「よぉ…雛」






――ドキン、ドキン…―






心臓が、動悸が収まらない…。
だ、ダメだ!恐がっちゃ…


勇気を、出さなくきゃ…!!






『と、知盛さん…




ありがとうございます!!!!

「は?」






戸惑い顔の将臣君に対して、妖艶な笑みを浮かべる知盛さん。


だって、実を言うと私…






「雛…?
なんで知盛にお礼言ってんだ?」

『じ、実はね…
私、知盛さんにも舞を教えてもらってたんだ』

「は?!い、いつの間に!!?」

「兄上と重衡が此処を留守にしている時だ…
丁度、舞を教わりたいと言っていたのでな」

「……マジで?」






知盛さんの教え方は、本当に有り得ないくらい厳しかったなぁ…
だって間違える度に刀を取り出すんだもん!!(泣)
そして私はそのたび自分の人生諦めてたなぁー…(ぇ)






「通りで可笑しいと思ってたんですよ…
私が教えていない柳花苑も雛さんは舞えましたし…
雛さんの教わっている別の方に教えてもらっていると思っていたのですが…
まさか兄上だったとは…」

「……と言うか、良く面倒くさがり屋なお前が運動音痴な雛に教えられたよな…」

「まぁ、相性が良いとでも言っておこうか?」

「(ムカッ)」

「(イラッ)」

『知盛さんもプリン食べますか?……って何この空気?






何時の間にか真っ黒な空気が漂っているし…
この短時間に何があったんですか?!!






「雛さん…?」

『え?!はい!』

「そろそろ帰らなくても大丈夫ですか?
もう夕暮れ時も過ぎてしまいましたし」

『…………え?』






気がつけば、さっきまでは明るかった太陽はすっかり沈んでおり、逆に大量の星とまん丸いお月様が輝いていた。


そっか!だから空気が黒く感じたんだ!!
納得、納得!




…………






『ヤバい!!!!』






またみんなに怒られる!
また弁慶さんにみっちり叱られて、恐い弁慶さんの部屋に閉じ込められる!!(泣)(そんなことされていたのか…)






『ご、ごめんなさい!!
私帰りますね!!!!』

「一人で大丈夫か?また送ってやるよ」

『う、ううん!大丈夫!!
それじゃあ、皆さん!また遊びにきますね!!
さようなら!!!!』






そして私は風のごとく、その場を後にした。






「さようなら…雛さん」





後から聞こえた重衡さんの悲しそうな声にも気がつかず…
帰るために足を急かさせた――






***






『うー!やっと解禁だ!!』






帰るのが遅くなったあの日、私は弁慶さん達に1ヶ月の外出禁止令を出され、弁慶さんにはあの数倍非道いことをされた…
そりゃあもう、此処では言えないくらい…(泣)


待ちに待った解禁された今日、久々にみんなに会いに将臣君達が住んでいる邸に向かっている途中…なんだけど。






『あれ?確か、此処だよね?』






目的地についても、目的の邸が見つからない。

その目的地らしき場所は、焦げた草と焦げた臭いが漂っていた…






『あ、あの!おばさん!!』

「ん?どうしたんだい?」

『此処に邸ありませんでしたか?
とてつもなく大きな!!』






冷や汗が流れ落ちる。
私の予感が、外れることを願う。


胸が、心臓が、動機が早くなる…






「ああ!あったよ!!
だけど確か、火事で焼けたはずじゃなかったかい?」

『か、じ…?』

「まぁ、噂によれば邸の人が火を放ったらしいけど…
どうだろうね、今戦争とかで物騒だろう?
あ、お客さんだ!じゃあね、お嬢ちゃん」

『は、い…』






苦しい…痛いよ…
うそ、だよね?
だって、この前まで…――






『……っ!!』






将臣君、重衡さん、知盛さん…
みんな、嘘だ、よね…?




涙で霞んでいる目でもう一度邸があった場所を見つめたが、やはりそこには何もなかった。






『なんで…?こ、この前までみんな、で…』






舞を教わったり、プリンを食べたり…してた、よね?






「あー!居た居た!!
お嬢ちゃん、ちょっと良いかい?」

『え…?』






涙の膜がかかった目をこすり後ろを振り向くと、先程私に火事の事を教えてくれたおばさんが少し焦り気味に私を呼んでいた。






「あー…良かった!!
実はあんたに渡して欲しいって言われてたんだよ!
ピンク色の短い着物姿でお団子をした女の子…
あんた雛…だろ?」

『え、はい…』

「はいよ!」






おばさんから受け取った和紙で包まれた細長いもの…
恐る恐る和紙をめくると中には…






『……っ?!』






紺色の夜をモチーフとした、桜や梅や十六夜の月が描かれている舞扇…

どう見ても、私なんかが買えるような代物ではなかった。






『お、おばさん!』

「ん?何だい?」

『こ、これ…一体誰から?』

「あー…名前は聞いてないけど、顔立ちは凄く良かったよ!
確か…銀色の髪の男だったかな…?」

『!!?』






銀色…?
と言うことは重衡さんか、知盛さん…?






「あ!あと、伝言“またいつか、会いましょう…”だとよ!
あはは!やるねぇアンタも!!
それじゃあ、私はもう行くよ!」

『あ、はい…ありがとう、ございました』






おばさんが行った後、私は再び舞扇を眺めた…。




「またいつか、会いましょう…」




その口調からして、この舞扇をくれたのはきっと重衡さんだ…






『……っ!ふぇ…』






跡形も残っていない邸の跡地を見て、私はしゃがみ込んで泣くことしか出来なかった。






「うわーん!!!!」






重衡さんにもらった舞扇をギュッと握りしめ、また会えることを願って…――






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