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12




「此処が今、俺が世話になってる場所だ」

『ほぉー…』






効果音を付けるならば正しくデーン






つる日々草
Act.12:赤のヒヤシンス-アカノヒヤシンス-






「お前は此処でちょっと待ってろ!
客人が来たって報告しねぇとなんねーから」

『あ、はい…』

「……何かしこまってんだよ」

『い、いえ…!別に』






だって此処大きいんだもん!
確かに景時さんの家も十分広くて大きいけど、これは広すぎだよ!


あー…これなら私、完璧に迷子なるね






「それじゃあ、大人しくしてろよ」

『あいあいさー!』






…………




2分後




『…………』




3分後




『………んー…』




4分後




『……んむうー!』




5分後





『……もう無理!』






ト、トイレがしたい!!(泣)
膀胱炎になっちゃうよ!

将臣君ー!早く帰ってきてーーーー!!




更に1分後…






『我慢できない』






ちょっーとぐらい抜けても良いよね…?

将臣君…ごめん!




そして私は小走りでその部屋を後にした…。






「わりぃ、遅くなっ…ん?」

「どうなさいました?………あ」

「「雛(さん)が(いねぇ・いない)」」






***






――ザァー…―






『ふぅー…すっきり!』






さてさて、そろそろ戻らなきゃ将臣君が心配しちゃう!






『えっとー…』

『うーんとー…』

『…………』






此処、何処?


右を見ても廊下、左を見ても廊下……迷った。






『さっきは無我夢中だったからなぁ…』






寧ろトイレにたどり着いたのが奇跡だよ。
野生(?)の勘ってやつだね!






『……とりあえず、右かな?』






これも野生の勘で!!(…)






――ト…ト…ト…ト…―






しばらく廊下を歩いたが、廊下の景色は変わることは無かった。
それにしても…静かだな
人一人も見当たらない…






――ト…ト…ト…ト…―






聞こえるのは私の歩く音のみ…
襖の開いている部屋もあれば、閉まっている部屋もある…


歩きながら全ての部屋を見ていると、また一つ、襖の開いている部屋。
チラリと中を覗くと…






『あ!!』






襖とは反対側に寝っ転がっているため顔は見えない、けど直ぐに分かる。
あの銀色の髪…






『重衡さん!!』






良かった!やっと知り合いに会えたよ!!




急いで寝ている重衡さんの所へ駆け寄る。
だけど…――






『重、衡さん…?』






スーっと寝息をたてている重衡さん…
だけど、よく見れば目の下になんか変なマークが…


オシャレかな…?






『あの、重衡さ…――』






重衡さんに触ろうとした。
だが、出来なかった…

否、出来なかったのではなく出来なくなったのだ。


寝ていたと思っていた重衡さんに急に押し倒され、何故か刀を向けられている。



な、に…?






『し、重衡…さん?』






目が恐い。
獲物を捕らえたような鋭い眼球…






『……っあ…』






刀の先が…首に触れる。
恐い…恐い…恐い…


私、殺されるの?


目から涙が零れ落ちる。
一粒一粒ゆっくりと…




すると、その男の人は急にニヤリと笑った。






「恐怖に満ちた顔、か…」






重衡さんよりも低い声。
ゆっくりと気だるそうな口調。






『……重衡、さんじゃ…ない?』

「重衡?
お前、あいつの知り合いか?」

『……は、い』






まだ上手く話せない。
理由は簡単、刀がまだ首筋にあるから…






「ククッ…そうか」

『あ、貴方は…?』

「別にお前に、教える筋合いは無いが?」

『…………(確かに)』

「まぁ、良い。教えてやる
俺の名前は、平知盛だ」

『知盛さん…』

「あいつと似ていると思われても、仕方がない
重衡は、俺の弟だからな」

『え!?』






た、確かにそれなら納得。
髪の色も目の色も同じだし、凄く似ているもん…






「……お前は?」

『櫻井、雛…です』

「……そうか」






目を細めて知盛さんは笑う。
その笑みに、私は恐怖を覚えた。


動きを止めていた刀が再び動き出す。




私は目をギュッと閉じ、斬られる覚悟を決めた。






「おーっと…そこまでだ」






耳元に聞こえた、あの声。

そっと目を開けると、知盛さんの刀を持つ手を押さえ込んでいる将臣君。
そして、知盛さんを宥めている重衡さんの姿…






「俺の客人に手出さないでもらえるか知盛?」

「兄上…どうか刀をおしまいください」

「なんだ…コイツは兄上の客人か?」

「ああ…まぁ、話は後からする…
それより、雛?」

『はい分かっています、すみません』






うわーい!!(泣)
恐いよ将臣君!笑顔に闇がかかってる!!






「今日はもう遅いから送る
詳しい話はその時だ」

『……はい』






あー…完璧に怒られるよ。




将臣君に連れられ、部屋を後にする。
すると…






「雛」






低いあの声。
バッと振り向くと、知盛さんがあの笑みで…






「またな…」






と告げた。
その言葉にどんな意味が込められているのかは分からないが、私は恐怖と動悸で苦しくなった。




再び前を向き、私はその部屋を後にした。






「兄上…」

「なんだ…」

「先に申し上げますが、彼女に手は出さないで下さいね」

「ククッ…何故そんな事を言う?」

「兄上が、彼女を気に入ったように思えたので」

「確かに…
あいつの恐怖で満ちた顔、ゾクゾクしたぜ…
この俺を、楽しませてくれるんじゃないか、とな」

「…………」






***






『――…と言うわけで、トイレ我慢出来なかったのです』

「…………」

『……ごめんなさい』

「……あのよ、雛
分かってるかもしんねぇけど、此処は俺達が住んでいた場所と違って物騒なんだぞ?
刀なんて大抵の奴が所持してる」

『…………』

「……あんまり心配かけんなよ」

『……はい』






苦笑いの将臣君。
本当に心配してくれている…






『今後…気をつけます』

「OKー
分かれば良いんだよ
だから、そんな辛気くさい顔すんな…」

『……うん』

「それと…」

『…?』

「いつでも遊びに来いよ?」

『……!う、うん!!』

「良い返事!
んじゃ、またな?」

『え?』






気がつけば梶原邸にいた。
梶原低は薄暗い空と反対に、優しい明かりの灯っていた






「此処で良いんだろ?」

『うん!ありがとう将臣君!!』

「つか、お前も結構良い家に住んでんじゃん」

『確かにね(笑)』






そして将臣君は背を向けて歩き出す。
しばらく歩いている将臣君を見て、大声で叫ぶ






『将臣君ー!!』






クルリと後ろを振り返ったのを確認して…






『絶対、また行くからねーー!!』






私が叫び伝えた後、彼はニカッと笑い、手を上げまた歩き出す。
OKの証し…


それを見て満足した私も家に入るため、将臣君に背を向ける…―






――ドンッ!―






だが、後ろを向いた瞬間何かとぶつかった。


そーっと顔を上げ、ぶつかったものを見てみる…






『…………』

「こんなに遅くに帰ってくるなんて…君はいけない人ですね?(黒笑)」






将臣君、助けて下さい。






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