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お月見


書類を全て終わらせた頃には月がてっぺんまで登っていた。珍しい。いつもなら定時に終わらせていたのだが、今日本当に珍しい。
しかし眠気も襲ってこなかったので散歩でもしていこうと思っていたら、人の気配がしたのでそちらに近づいていった。


「...沢田?」

「あ、隊長。」

「あ、いや、そのままで構わない。」


そこには煙管をふかした沢田が縁側に座っていた。居住まいを正して立ち上がろうとした彼に咄嗟に静止の声をかけた。


「隣、いいか?」

「いいですけど、煙たいですよ?」

「...構わない。」


俺が隣に座った事を確認すると、また煙管をふかし始めた。


「今日は何だか眠れないんです。」

「...俺もだ。やけに眼が冴えてる。」

「働きすぎじゃないですか?」


笑い声の混じる問いかけに、そうかもなと返す。すると思い出したように、ちょっと待っていてくださいと声をかけ、部屋に入っていった。
数分も経たないうちに部屋から出てきた沢田の手には洋酒とグラスが握られていた。


「月見酒と洒落込みましょうか!」


一瞬その悪戯な笑みに呆気にとられてしまったが、すぐに肯定の返事を返すと満足そうな笑みを向けられた。


「...洋酒か。」

「はい。甘口の葡萄酒なんですけど、こっちに売ってないじゃないですか。だから知り合いに頼んで、現世で買ってきてもらったんです。
甘いものは大丈夫ですか?」


2つのグラスに注ぎ、そのグラスを差し出しながら問いかけてくる目の前の青年。あぁ、と小さく返事を返すとまた満足そうな笑みを向けられた。
グラスを受け取ると沢田もグラスを手に取り


「美しい月に、乾杯。」


沢田の音頭でお互いのグラスを軽く当てると、カランッという音が辺りに響き、2人で酒を煽った。


「...よくそんな臭い台詞が言えるな。」

「あはは、もう癖みたいです。」

「にしても、美味いな。」

「でしょ!!このお酒、俺結構好きなんですよー。」

「あぁ、葡萄酒は初めて飲んだが...気に入った。」

「本当はもっと美味しいお酒あるんですけどね。」


もうちょっと収入がよかったらなー、と隣で上司にボヤく沢田に少し苦笑いする。


「...知り合いっつうのは千花のことか?」

「千花...あぁ、白蘭のことですか?そうですよ。」

「あいつと知り合いだと言うやつはお前が初めてだ。」


俺が見てきた中ではな、と付け加えると沢田は苦笑いを返す。


「あいつは少し、ずれてますから。
あいつと上手く付き合って行きたいなら花言葉を覚えなきゃできませんよ。

あいつから花、貰いませんでしたか?」

「.....アネモネとかいう花を貰った。」

「アネモネですか。意味は 期待 。」


よかったですね、嫌われてませんよ。
笑顔でそう言われてしまってどう返して良いか分からなかったが


「そりゃよかった。」


そう返すと人懐っこい笑みを浮かべてそうですね、と返される。




「...明日からだな。」

「そうですね。」

「急いでる理由は今は聞かないでやる。気が向いてから言ってくれれば構わねえ。」

「...はい。」








「お前がいなくなるとなると、松本がまた書類を溜めだすんだろうな。」

「あはは。そうでしょうね。」


こっちとしては笑い事ではない。また怒鳴り散らさなければいけなくなるのかと思うと、今から気が重い。


「それだったら今六番隊にいる蓬(よもぎ)をこっちに異動するように言っておきますよ。剣術もそこそこですし書類は好んでやるような子なので。
性格と口調に多少の難はありますが、松本副隊長なら大丈夫だと思います。」

「...そうか。助かる。」











(少しだけ)
(ほんの少しだけ)




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