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天の岩戸。後編。
「あら、楽しそうね。」
なにをしているの?
図書館で読書をしていたロビンが合流する。
ここでもナミが経緯を説明した。
「ドアを開けるだけなら簡単よ。」
「まさかてめェまで壊すだなんだ言う気じゃねェだろうな?」
事もなげに言うロビンに、
フランキーの疑いの言葉。
ルフィとゾロの短絡的思考と、無駄な実行力のお陰で、フランキーは少々過敏な反応をみせる。
「そんなことしないわ。
普通に開けるだけ。」
にっこり微笑むと、ロビンは言葉通り、普通にドアの鍵を開けた。
ダイニング側から、
"ごく普通"に。

「………………。」

あまりのあっけなさに、一堂唖然。
今までの苦労は何だったのだろうか?

「サンジ〜〜っ!!」
小一時間振りに出会えたサンジに、ルフィが後ろから力一杯飛び付いた。
その光景はまるで、数カ月振りにあった恋人たちのようでもあり、
残る6人は温かく見守った。
「うお、ルフィ?!
それに、なんだお前ェら迄?!」
食事の時間にはまだ早く、
ルフィは兎も角、他のメンバー迄もがダイニングに集まった事に、サンジは驚く。
自分で鍵をかけた事は忘れているようだ。
「…………!!」
フランキーが何かを言うが、
サンジの耳には上手く届かない。
「ああ、ちょっと待ってくれ。」
言って、サンジは耳栓を外した。
あれだけの騒動の中、サンジがダイニングから出てこなかったのは、
耳栓をしていたお陰で、外の音が全く伝わってこなかったからであった。
流石はメイドインウソップ工房。
性能抜群である。
「メシなら今支度中だ。
待てねェんなら、軽いサンドウィッチでも作っけど。
……ん?
ってクルァ!マリモ!!
酒を持ってく時は、一声掛けやがれっ!!」
クルーの顔を見回した後、
我関せず、と当初の目的通りワインに手を伸ばすゾロを咎める。
凹んでいようとどうだろうと、
骨の髄までコックのサンジであった。

「サンジ!サンジ!!
おれ、サンジが元気になる方法思い付いたんだっ!!」
背中のルフィがサンジの関心を向けようと声をかける。
「別におれは至って元気だ。」
あまり真実味のないサンジの言葉をあっさりスルーし、背中から離れると、
「どうだっ!!」
じゃ〜ん!!
と、ばかりに、
ポケットにしまっていたお陰でしわくちゃになった紙を広げて見せる。
「なっ!!」
「………あ。」
サンジと他のメンバーの声がみごとにハモる。
ししししっ、
と、笑うルフィをいつもの様にしょうがねぇヤツ、と、見守る余裕が今のサンジにはない。
極めて沸点の低い状態で見せられたソレに、
一瞬でキれたサンジは、ルフィを力一杯甲板めがけて蹴り飛ばした。

いつもならここで、
てめェ、ルフィになにしやがる!
と、ゾロの斬撃が場所を選ばず飛んでくるのだが、
今回ばかりはソレがない。
サンジがあまりに気の毒で、
攻撃を仕掛ける気にもなれなかったのだ。
はぁ、はぁ、と、
肩で息をしながら、
完璧なポーカーフェイスが崩れ、ちょっと涙目のサンジに、
クルーは視線を逸らす。
ルフィが踏んだ地雷の威力が余りに強過ぎて、
痛ましくて見ていられなかったのだ。

(……どうしよう。)

見るも無惨な程に精神的ダメージを受けるサンジに、クルーは対応に困る。
慰めようにも、声のかけようがなかった。

酷い。
余りに酷過ぎる。
せめて、これ以上ダメージを負わない様にと、ロビンがルフィが踏んだ地雷を回収するも、
ダイニングには非常に重〜い空気が立ち込めていた。


「あ〜〜、腹減った〜〜っ!!
サンジ、メシ食わせてくれ〜〜〜。」
それまでの遣り取りを一切知らないウソップが、途中に落ちていたルフィを拾ってダイニングの扉を潜る。
「ん?
どしたんだ、お前ら?」
一歩足を踏み入れたダイニングの異常な雰囲気に、ウソップは不審感を隠さず問いかける。
しばらく答えを待ったが、迂闊に動けなく沈黙を通す面々に、
これ以上待っても無駄だと悟り、
サンジに話しかける。
が、
その内容と言うのが……
「ああそうだ、サンジ。
お前の手配書なん…「ウソッ〜〜〜プっ!!」
ナミとフランキーが声を上げ、チョッパーはウソップにしがみつく。
ロビンまでもが、ハナハナの能力でウソップの口を封じ、それ以上の発言の阻止を計った。
「おれの手配書がなんだって?」
地獄の底から響くような怒りに満ち溢れた唸り声でサンジはウソップに問いかける。

海軍の下手くそな似顔絵の手配書で落ち込んでいたところへ、
先程のいっそ見事な迄に奇抜かつ前衛的なルフィお手製手配書。

今のサンジにとって"手配書"の単語は、
タイミングが悪い事この上ないNGワードだった。

「ひえっ!!」
ビビる。
ウソップじゃなくても、コレはビビる。
蛇に睨まれたカエルの如く、
ウソップは冷や汗ダラダラで高直後。
「ウソップ、黙ってちゃわかんねェだろ?
聞いてやる、言ってみろ。」
この上なく美しく微笑んだサンジ。
目が笑っていない。
怖い。
非常に怖い。
けれど、脅しを含んだサンジの言葉に逆らえる訳もなく、ウソップは続きを話す。
「お前、あの手配書嫌がってただろ?
こういうのって、気分の問題だし、
おれが新しいの作ってみたんだ。」
声が上滑りながらも、どうにか説明を終えると、
ウソップは手にしていた自作の手配書を、
おずおずとサンジに渡す。
「!!!!
ウソップ、てめェっ!!!!」
「のぉうわぁ〜〜〜っ!
ゴメンなさい!!
すみません!!
申し訳御座いません〜〜っ!!
カミサマ、ホトケサマ、
サンジサマ!!!!
どうぞお許しを〜〜っ!!」
ギロッと鋭い眼光で睨まれれば、自分に非などないにもかかわらず、
無条件に全力で謝ってしまうウソップであった。
つかつかと睨み付けたまま近付くサンジ。
自慢の逃げ足の出番なのだが、
靴裏に接着剤でも付いてるのか?と疑いたくなる程に動けない。

「え?」
ほんの一瞬、
サンジは作り笑ではない笑みをみせる。
背筋も凍る先程の笑顔とは違う笑みに、
ウソップはおもわず赤面。
次の瞬間、
「サンキュッ!!vV」
「??!!////」
ぎゅっと力一杯抱き締められては、違う意味で動けなくなる。

そして、
感謝を込めた、ほっぺにちゅ〜。
サンジの激レアデレモードに、
ウソップの心臓はパンク寸前だ。

「あ、そぉだ!
ウソップ、てめェ腹減ったつってたな?
何が食いてェ?
好きなモン作ってやる♪」
地獄の使者から一転、天使と見紛うばかりの笑顔で問いかけるサンジ。
サンジがメロリンモード以外で、純粋な好意を示すのは極めて稀であった。
「………サンジの作るもんは何でも美味いから、任せる。」
ドキドキし過ぎて、咄嗟にリクエストの思い付かないウソップは、月並みの答えを返す。
「んじゃ、飛び切り美味いもん作ってやっから、楽しみにしとけ!」
こんな時のサンジは、凶悪な程に、可愛らしい。
サンジを見慣れたクルーでさえ、それぞれ程度に違いはあるものの、少なからず見惚れてしまっていた。
(いつもこうなら良いのに……。)
誰とはなしに漏らした感想に、
賛同者は半数を超えた。

もっとも、誰彼構わずこの笑顔を向けていたら、
それこそ収集つかないくらいに身に危険が降りかかってくるのだから、
サンジの天邪鬼もあれはあれで、本人の意図しない所で自己防衛の役割を果たしていたのだが。

「サンジっ!!
ズルいぞっ!!!
なんでウソップばっかちゅ〜したり、ぎゅってしたり、
好きなモン作たりしてんだ!」
上機嫌のサンジに不満爆発のルフィ。
ぎゅっも、ちゅ〜も、肉も、
ホントは自分がして欲しかったコトなのだ。
コレまた本当に珍しいルフィのヤキモチである。

「おれにも、
ちゅ〜と、ぎゅっをしろっ!
サンジっ!!」
「ほぉ〜う?
どのおクチがそんなコト言えるのかなぁ?」
どーん!
と、いつもの調子で命令してくるルフィを、
上から目線で見下ろしては、その柔らかなほっぺをぎゅ〜とつねって引っ張る。
「ひゃんりぃ〜〜っ!!
ひゅうろぎゅう〜〜〜っ!!」
ソレでも諦めないで喚き続けるルフィに、
サンジはため息を一つ。
「ったく、しょうがねぇなあ!」
つねっていた頬を離すと勢い良くパチンと戻る。
と、今度は、その頬にちゅっと、僅かに触れる程度の口付けを贈った。
たとえ、残念な結果でも、
ルフィの一生懸命さは、ちゃんとサンジに届いていたのだ。
「満足か?」
「ししししっ!おうっ!!」
いつもの余裕たっぷりの笑顔に戻ったサンジからのキスに、
ルフィはお日様の様に笑う。


サンジ浮上で、ルフィにも元気な笑顔が戻り、
サニー号は日常を取り戻す。

こうして、
コックさん落ち込み騒動は、メイドインウソップ工房製のクオリティの高い手配書によって幕を閉じたのだった。


終わる。
(2010・8・6)

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あきゅろす。
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