第2話 探求者編より‐思い出‐
 ルシオとマリエッタが雇った4人の請負人(コントラクター)の達の実力は、始終『凄まじい』の一言に尽きた。
 武器を持ったまま怯えるだけのルシオ達の前で4人は取り乱す事もなく勇敢に戦い、目を見張る速さで結果を叩き出した。「凄い……」と、隣にいるマリエッタが呆然とそんな言葉を漏らしたほどだ。
 ルシオの内心もマリエッタとほぼ同様のもので、自分達と4人の間にある歴然たる力の差にただ圧倒されるばかりだった。
 あれが『金』か。ルシオは、湧き上がった尊敬と羨望を胸中で持て余した。
「これで終わりだっ!」
 ウィズの長柄斧の刃が1体の魔物の急所を捉え、裂く。ルシオ達を含む町中の人間達を脅かし続けていた魔物は、余りにもあっけない最期を迎えた。
「はーい、こっちもラストだよー!」
 ルシオ達を守護する立場を買って出ていたクラウスも、強烈な炎の魔法による火炎放射でこちら側に残っていた最後の1体を僅か一瞬にして炭化させた。
「終わった……のか?」
 ルシオの呟きに応じたのは、大剣に付着した鮮血を振り払っていたカインだ。
「ひとまず魔物の気配は失せましたが、まだ油断は出来ません」
「またどっかから出て来る可能性も、なきにしもあらずですからねー」
 小剣を鞘に収めて呑気に伸びをしつつ、クラウスも同調する。
「ま、そん時はそん時だろ! この面子なら、なんとかなるって!」
 ウィズは、どこまでもプラス思考だ。
「よし! ブローチ探し、再開だな!」
 ウィズが再び威勢良く声を張り上げると同時に、ルシオはある異変に気付く。
「……アシュタル君?」
 ルシオの台詞に、全員の視線がアシュタルの方へと吸い寄せられた。
 ルシオ達に背を向けている関係で表情は窺えないが、アシュタルは幾つもの魔物の死骸が転がった地面にしゃがみ込み、顔を下方に傾けて沈黙している。
「アシュタル? どうした?」
「怪我でもした?」
 ウィズとクラウスが口々に問うと、アシュタルは静かに緩やかに立ち上がった。そして、ルシオ達を振り返る。掌に、花を象った小さなアクセサリーを載せて。
「! それは……!」
 ルシオの傍らでマリエッタが双眸を見開き、驚きの声を上げた。

 * *

 マリエッタは居ても立ってもいられず、アシュタルの元へと駆け寄っていた。
 無表情のアシュタルはマリエッタが近付いて来たのを確認すると、無言で彼女にそのアクセサリーを差し出した。
 アクセサリーがアシュタルの手を離れ、マリエッタの手に渡る。瞬間、彼女は自身の瞳がじわりと熱を帯びたのを感じた。
 子供の頃、大好きだった祖母から貰った宝物。マリエッタの知識にない、異国の花をモチーフに作られたブローチ。アシュタルから渡されたのは、彼女が探し求めていたそれに間違いなかった。
「良かったね。マリエッタ」
 マリエッタに歩み寄ったルシオが、柔らかな微笑を浮かべて語り掛ける。
 マリエッタは大きく頷くとブローチをそっと両手で包み込み、想いを馳せた。
 祖母を不治の病で亡くした今でも、決して色褪せる事のない記憶。愛情。このブローチがある限り、自分の心は常に祖母と繋がっている。ずっと、ずっと一緒だ。
「有難う……皆……」
 ルシオと4人の請負人達に、涙ながらに嘘偽りのない感謝の意を示す。
 もし、ブローチが見付からなかったら。想像するだけでも末恐ろしい爆発寸前の不安が消し飛んだのは、5人の協力の賜物だ。マリエッタ1人だけなら、まずこうはいかなかっただろう。
「一件落着ですね、先輩」
「ああ」
「でかしたぞ! アシュタル!」
「……」
 請負人達の他愛のない遣り取りが聞こえる中でマリエッタは必死に涙を拭うも、漏れ続ける嗚咽はとどまる所を知らない。
「……お祖母ちゃん……」
 脳裏に蘇る、祖母の笑顔。マリエッタはルシオに肩を抱かれ、泣いた。


‐終‐


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あきゅろす。
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